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アニメや漫画の世界では、二足歩行のロボットは珍しくない。猫型ロボットですら二本の足で歩いている。
だが、現実世界で圧倒的に普及しているのは四足歩行のロボットだ。
四本足にはメリットがたくさんある。二本足より安定感があり、キャタピラより障害物に強い。宅配や公共施設などの見回りに採用され、いまや四足歩行ロボットは街じゅうを歩き回っている。『二本足は良い、四本足はもっと良い』とはよく言ったものだ。え、違うって?
「……いや無理だろ、二足歩行は」
おれは我に返り、玲の無茶ぶりにツッコミを入れた。
「えー、何でえ」
「四足歩行用のロボットだからだよ! 見ればわかるだろ」
「でも、兄ちゃんなら改造できるでしょ? 大学でロボット作ってるもん」
「……作ってはいない。どっちかっていうとソフト側だし」
おれの声は小さくなった。ロボット工学専攻の学生としては、ちょっと情けない言い訳だ。
「こうしたら、歩けそうなのになあ」
玲はボディを垂直に持ち上げた。だらりと伸びた後ろ足はそのままに、ロボットを立たせるように床に置く。ロボットは前のめりになったかと思うと後ろにのけぞり、ひっくり返った。
「ちぇっ、ダメかあ」
「……ちょっと待て」
おれは、ヒゲの剃り残しをいじっていた手を止めた。
今の動きは気になる。前に傾いたとき、そのまま倒れてしまわなかったのはなぜだ? のけぞった動きが、まるでバランスを取ろうとしたみたいじゃないか。
おれは、倒れたままのロボット――ミニロボ君と呼ぼう――を手に取った。しげしげと見ていると、玲が処理中のPCに気づいた。
「兄ちゃん、勉強してたの?」
「まあな。あれは大学の課題」
「ふーん。難しそうだね」
「そうでもねえよ。仕事してるのはほとんどAIだしさ……」
ミニロボのボディの正面に、小さなレンズがはまっている。カメラのようだ。
「玲、取説ってないの?」
「ネットでダウンロードできるって言ってたよ」
箱に印刷されたQRコードを端末で読み取ると、クラシ・ロボティクスのホームページが表示された。
「すげえ、制御ソフトとか全公開してるんだ。ボディのCADデータまで」
ダウンロードした図面を見ながら、ミニロボのボディを開けてみた。推測通り、小さなカメラがはまっている。
「兄ちゃん、それ何?」
「ちょっと待て」
傷をつけないように注意しながらカメラの固定具を外し、ボディの外に引っ張り出す。おれは精密ドライバーで指し示しながら、興味津々の玲に説明した。
「あのな、四本足で歩くとき、このカメラは前を向いてる。でもボディを縦にすると、カメラも上を向くだろ?」
「うん」
「それだと、天井しか見えなくなる。お前は歩くとき、天井を見るか? どこ見てる?」
「あっ、前を見る!」
「イエース」
おれはマスキングテープを使い、ボディが立った状態で前を向くようにカメラを固定した。
「頭ができたね!」
「目しか無いけどな」
おれは再びスイッチを入れた。床に降ろされたミニロボは前にぐらりと傾き……そのとたん左足が出て、体を支えた。
「立った! ミニロボが立った!」
おれたちは歓声を上げた。
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