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ミニロボは、カメラ映像を使ってバランスを制御しているらしい。カメラの向きを変えただけで、犬や馬からヒトに進化した。
「でも酔っ払いだね!」
玲がずばりと言った。確かに、さっきからあっちにフラフラ、こっちにフラフラと落ち着きがない。
「ねえ、まっすぐ歩かせられないの?」
「立っただけでも奇跡だと思えよ」
「そこを何とか! もうちょっと頑張ってえ!」
「無理言うなあ……」
玲をにらむふりをしながら、おれはミニロボを持ち上げた。手のひらにボディを乗せ、左右に傾けてみる。
「重心が高いのかな。あと、バランスをとるために腕をつけた方がいいかも」
「じゃあ、腕はぼくが作る!」
適当な腕じゃダメなんだぞ……と言いかけて、おれは口をつぐんだ。玲の瞳がキラキラ輝いている。
「よし、任せた。母さんに言ってなんか材料もらってこい」
「わかった!」
玲は部屋を飛び出して行った。
残されたおれは、腕を組んだ。玲には重心とかバランスとか言ったが、それだけで現状を打破するのは難しい。制御ソフトに何らかの工夫が必要だ。
課題のコードチェックはいつの間にか終わっていた。発見された不具合の数々が画面上にリスト化され、修正されるのを待っている。
おれは、それらの結果を保存して作業画面を閉じた。代わりにウェブブラウザを立ち上げ、ミニロボの制御ソフトについて調べ始める。まあ、不具合は逃げないしな。
「じゃーん!」
数十分後、自作の腕を持った玲が帰ってきた。意外にも、その見た目は一本の棒である。厚紙を何枚も重ね、テープで巻いて補強してあった。
「綱渡りのとき、棒を持ってるとバランスがとりやすいんだって!」
玲はおれに説明した。
「だから、棒みたいな腕にしたんだ。先っちょにはおもりを付けたよ」
「へえ、ヤジロベエみたいだ。よく思いついたな」
褒めると玲は満面の笑みを浮かべた。
「早く試そうよ!」
「ちょっと待ってな」
おれはロボットとPCをケーブルで接続し、作ったばかりのソフトを書き込んだ。ホームページで公開されていたライブラリに少々手を加えた、オリジナルの姿勢制御ソフトだ。
「よし、スイッチ入れてみ」
「うん」
玲がうやうやしい手つきでスイッチを入れる。
そっと床に置かれたミニロボは、颯爽と歩き始めた。ぎくしゃくとした動きは残っているものの、先ほどまでとは段違いの滑らかさだ。
「すごいね! さっきより、ちゃんとしてるね!」
「おお。腕もいい感じだな」
玲の作った腕は、上下に揺れながらミニロボのバランスを保っている。お世辞抜きに感心すると、玲は面映ゆいような笑顔を浮かべた。
「兄ちゃん、ありがとう」
「いいって。でも何で二足歩行なんだよ?」
「だって、こっちのがかっこいいじゃん! アニメみたいでさ!」
玲は言い切った。まじりっ気のない笑顔が、何だかうらやましかった。
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