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序幕
この世には六つの世界が存在する。
≪天道≫≪人間道≫≪修羅道≫≪畜生道≫≪餓鬼道≫≪地獄道≫。
これら六つの世界をまとめて≪六道≫と言う。
また≪天道≫の事を天界。≪人間道≫の事を人界。そして≪修羅道≫≪畜生道≫≪餓鬼道≫≪地獄道≫の四つを魔界と言う。
これらは三つの世界に分けられる。
一つ、天界。そこは神族と天族が支配する世界。争いはなく、全ての人が助け合い生きている理想郷そのもの。
一つ、人界。そこは人間が支配する世界。他の世界から干渉を許されない独自の世界。
一つ、魔界。そこは魔族と妖族が支配する世界。魔界では力が全て。弱い者は殺されても何も文句は言えない。
そして世界は廻る。
全ての命は生まれ変わり、死に変わり、また生まれ変わる。
この六つの世界、≪六道≫をグルグルと無限に生死を繰り返す事を≪輪廻転生≫と言う。
これはそんな六つの世界の物語。
知っている。
わかっている。
はずなのに――。
“何も覚えていない”。
お互いの距離は一メートルほど。
そんな近い距離でお互いを見ても何も思い出せない。
ただ視線は釘付けで眼が離せなかった。
なんだこいつは? なぜこんなにも気持ちが高鳴る?
理由は不明。これは本能に近い感情なのかもしれない。
「よう、調子はどーよ?」
男は気さくに話しかけた。こんな状況でなければその声のかけ方は正解だったろう。
「ぜ……絶好調?」
思わずそんな言葉を返してしまった。冗談くさい言葉には冗談くさい言葉を返すのがいい。
あの頃と同じ様に。
二人は言葉を交わすと、よりいっそうと魂をくすぐられた。
ただ――懐かしい。
そんな感情が押し寄せてきた。
きっと“今の自分”ではないのだろう。それは遥か昔の記憶。
あぁ、やっとか。そう思ったがそれもすぐに忘れた。
それは過去の記憶であって、今現在の自分たちには関係のない記憶だ。
そんな前世の自分など断じて自分ではない。一個人として今、ここにいる。
こんな男は覚えていない。
こんな女は覚えていない。
こんな奴は――知っている。どうしようもなくわかっている。
わかっているのにわからない。
こんなことがあっていいのだろうか。
この広大な魔界の地でまた巡り合うなどという事があるのだろうか。
普通ならありえないだろう。
ただ――。
“あの時の”約束はこの瞬間に果たされた。
前世の記憶がなくてもそう感じた瞬間だった。
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