しあわせになる杯

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馬車の中は実にシンプルな作りになっており、両端に長い椅子が設置されていた。 ただ、窓はひとつもなく、外の景色を伺うことは不可能なようである。 長椅子には庶民と思しき人たちがにこにこと笑いながら座っていた。あまりにも異質だ。 「私たちも笑顔でいた方がいいかもしれないな。 浮いてしまっては調査に支障が出る。」 アルフィーが小声でそう言ったので、リアムも頑張って笑顔を作ることにした。 しばらく満面の笑みを顔に貼り付けていると、先程の白ローブが中に入ってきた。 「お待たせ致しました! では今から我らの教会へ参りましょう!」 白ローブが意気揚々と言うと、信者たちはぱちぱちと拍手をし始めた。 まるでカーテンコールである。 数秒経ってから白ローブは両手を少し上げ、拍手を止めるよう促す。 「目的地までは少しかかりますので、それまで私がこの宗教についてお教え致します。」 白ローブはそう言ったあと、ぺらぺらと宗教の成り立ちや信仰の仕方云々を語り出した。 要は強い信仰心と幸福の水とやらを飲むことが重要だそうで、他に特筆するべきことは言っていない。実に薄っぺらい内容であった。 どれくらい経っただろうか。 道の舗装が軽いようで、時折馬車が大きく揺れるようになった。 信者たちが自慢の幸せトークをしている間で二人は笑顔を保持することに集中していた。 「アルフィー、俺、顔が引きつってきた……」 「我慢しろ、あともう少しだ。」 冷や汗が止まらない。 早く、早くついてくれ…… リアムがぷるぷると震えながら到着を待っていると、馬車の速度が落ち、やがてゆっくりと止まった。 「さあ皆さん、到着致しましたよ!」 白ローブがそう言うと同時に馬車の扉が開かれる。 眩しい日の光と共にずらずらと別の白ローブたちが乗り込んできた。 「今から教会内の個室へ案内します。 建物の中は広いので迷子にならないように。」 白ローブの指示とともに、白ローブエクストラたちは四人ずつ信者を連れ馬車から降りていく。 「さあ、参りましょうか。」 もう誰がどの白ローブかは分からないが、とにかく白ローブの一人にリアムは声をかけられた。 白ローブの隣には三人の信者が立っている。 「あの、アル……隣のこいつは一緒じゃないんですか。」 「四人で一班ですので。」 どうするべきかとリアムはアルフィーの方へ視線をよこすが、アルフィーは前を向いたままでこちらを向いてくれない。恐らく、気にせず早く行けという意味だろう。 仕方がない、隙を見計らって会いに行くことにしよう。 馬車から降りると、目の前には屋敷以上はあるであろう大きな建物が建っていた。 「教会ってレベルじゃないよこれ……」 リアムがぽかんとしていると、白ローブは律儀に説明を始める。 「信者のほとんどは教会で寝泊まりする決まりになっているんですよ。 ですから部屋が多くなるわけで、建物も自然と大きくなる訳です。」 ほへえ、なるほど……おっといけない、警戒警戒。 白ローブはリアムを含め四人を連れ歩きながら、ツアーガイドのように説明を続ける。 「正面の三角屋根は礼拝堂です。一番の要ですね。 信者の皆さんは毎日訪れることになりますが、分かりやすいので迷うことはないでしょう。」 ……このような感じで部屋に着くまでは終始説明が続いた。はっきり言って長すぎるが、内部構造は理解しておかなければならない。特に食堂は大切だ。 後はアルフィーとどう合流するかが問題である。 リアムは部屋に着いてからもあれやこれやと頭を悩ませていた。 しばらくリアムが頭に人差し指を当てくるくるとさせていると、先程の白ローブが再び部屋に入ってきた。 「今から一日のスケジュールをお教えしますのでよく聞いてください。 食事は朝夕の二回、食堂で行います。 礼拝は一日三回、食事の前に二回と昼に一回。 あなた方はまだ新人ですから、とりあえず礼拝だけきちんとこなして頂ければ問題ありません。 就寝前の一時間は自由時間を過ごすなり大浴場で風呂を済ませるなりしてください。ただし、風呂以外の目的で部屋の外から出ることは許されません。お気をつけください。」 これもまた長ったらしい説明を白ローブは述べた。 さて、どのタイミングでアルフィーと合流しようか。 おや、白ローブの方を見ると、どうやら白い布のようなものを持っている。 「それから、この服を常に着ていただきます。 換えは一着しかありませんのでこまめに洗濯をするように。」 えっ……やっぱり着るの?それ…… 不快感を思いっきり顔に出してしてしまったリアムは白ローブに睨まれたような気がした。 オ、オカオガコワイデスヨ〜?カルシウム、タリテマスカ〜? すかさず笑顔を顔に貼り付ける。 冷や汗が首を伝った。 「まあとりあえず、分からないことがあれば向かいの部屋に私がいますので。それでは。」 そう言うと、白ローブは扉を閉じて出ていった。 向かいの部屋に白ローブ、もとい班長が寝泊まりをしている? 監視の意味もあるのだろう。一気に動きにくくなってしまった。 再び自分の世界に入って考え事をしているとふと後ろから声がしたような気がした。 「あの〜」 やっぱり気のせいだろうか。 「あ、あの〜!」 腕を掴まれてからようやく、自分が呼ばれていることに気づいた。 「はい!」 びっくりして兵隊のように良い返事をしてしまうリアム。 そんな彼を見て声の主がくすくすと笑い始めた。 後ろを振り向くと青年が立っていた。リアムと同い年か少し年上くらいだろうか。 タレ目が似合う可愛らしい青年だった。 「ふふ、驚かせてすみません。」 は、はあ…… 「実はその、お友達になって欲しいんです。」 はあ? リアムがあまりに怪訝な顔をしているからか、青年は困った顔をする。 「えっと、ごめんなさい……嫌ならいいんです…」 青年の可愛らしい顔がしょんぼりとした。 リアムは罪悪感に苛まれてしまう。 「あ、え、えーと……」 おともだちになるのは構わないが、一人で仕事に集中できなくなるのであまり乗り気ではない。 青年はしょんぼりとした顔のまま口を開く。 「ほら、他の信者の方って年上が多いじゃないですか……?喋りかけるのが少し怖くて。 まだ入信して間もないですし、分からないことがあったら大変だなあと……」 むむむ。 リアムはその言葉を聞いてびびっと来た。 なるほど、情報共有か……それはいいかもしれない…… 戦は情報が命とも言う。 ジャックから直接依頼を聞いた訳では無いから、今のリアムには決定的に情報が欠けているのだ。 関係の無い青年を巻き込むのはいたたまれないが、今回は利用させていただく。 「……いいよ!友達になろう! 俺はウィリアム。リアムって呼んでくれ!リアムだからな!」 大切なことなので二回言った。 「わあ……!本当……!?ありがとう! 僕はマシューって言います!よろしくね!」 タレ目の青年……マシューはぱあっと顔を明るくさせた。
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