贖罪

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贖罪

やはりロゼリア様は何かを見たのか。それもニウェウス神の意志によってではなく、別の意志によって。 「ロゼリアは愛する者の死を何度も繰り返しました」 「プルシャン侯爵のことね?」 プルシャン侯爵の名を出せば、ニウェウス神は神妙な顔つきのまま頷いた。予想はしていた。ロゼリア様がプルシャン侯爵を避け始めたということから、特に彼に災厄が襲ったのだろうと。 「最初の二人は無事に結婚しましたが、先王とロゼリアの兄らによってプルシャン侯爵は殺され、ロゼリアもまた……。それからロゼリアは何度も過去に戻ってやり直しましたが、変えることは出来ませんでした」 「で、でも。パグールスの王女がやって来る前まで戻せば……」 パグールスからの侵攻の起因となるのが、王女を手籠めにした為に婚姻することになり、その流れで王国に不利な条約を結ぶこととなり、結果といて衰退して滅亡したと聞いている。だから例えば、王女が現れる前に、先王に良い相手を選ぶとか、失脚させて別の王子を王太子に挿げ替えるとか、方法は他にもあるかもしれない。 「駄目でした。パグールスは別の方法で退けましたが、結果が同じであれば過程など考慮されず、ロゼリアが生き残ることはできても、侯爵が死ぬ未来だけは変わりませんでした」 「それじゃあ、コロル王国は滅亡するしかないじゃない!」 「だから未来を変える為にロゼリアは先王に嫁いだのです」 先王の御代に、ロゼリア様とプルシャン侯爵という二人がいなければコロル王国が生き延びることは出来なかっただろう。仕事をしない王族に代わってロゼリア様が公務を行い、プルシャン侯爵が貴族達を取り纏め、国を率いてくれたのだ。二人の代わりなんていなかった。 「だけど!これじゃあまるで生贄じゃない!!」 「セレスティーナ……」 「貴族として、人として、国を守ろうとすることは尊いことかもしれないわ!!だけど、二人がそこまでしなきゃいけなかったの?二人が守ろうとしたものに、それほどの価値があったの!?」 王国で暮らす多くの人々の為に、労を惜しむことなく尽くすように私は教育を受けて来た。きっと二人も同じだったろう。私の祖父であるセルリアン侯爵や、母もまた同様の教育を受けてきたに違いない。けれども一部の愚か者達によってメチャクチャにされ続けている。 その元凶が、目の前にいる男だ。ニウェウス神と建国王サングィスが交わした契約が、私達を縛り付けている。 「どうして歴史修正なんて、私達は繰り返さなきゃいけないの!?滅びるのが定めというのなら、摂理に従うべきよ!」 ニウェウス神による恩寵が無ければ、もうずっと昔に王国は滅びていたのかもしれない。しかし【修正者】達が犠牲になって成立しているのだとしたら、それはおかしいと思う。 それと同時に、王国の滅亡はニウェウス神の消滅であるとも聞かされていたせいで、もう気持ちはメチャクチャだった。私はニウェウス神に死んで欲しい訳じゃない。利用されていようと、私にチャンスをくれたことは事実で、楽しいと思える時間は嘘ではなかったのだから。 ふぅと一つ息を吐いて、ニウェウス神は顔を隠すように手で覆った。何と答えるのだろうか。真実を話してくれるのか、それともまた欺かれてしまうのだろうか。私はやはりこの男が分からない。 「コロル王国に与える恩寵は、私の贖罪なのです」 ぽつりとニウェウス神は呟いた。 贖罪とは、善行や金銭によって罪を償うことを言う。神が犯した罪を償う為に、人間に恩寵を与えるなんて変な話だ。しかし、その言葉が本当であるなら、99回も王国の滅亡を放置していたことにも説明がつく。建国王サングィスがニウェウス神のお気に入りでないのなら、詰めが甘くなってしまうのは当然だ。だって恩寵として、やり直しの機会を与えることが贖罪であるのなら、その成否など問題ではないのだから。 「かつて私は罪を犯し、そのことでサングィスに対して不利益を与えました」 「だから歴史修正なんていう恩寵を与えたの?」 「そうです。彼の国が順調に栄えていく為に、間違った時に正しい道を選び直すことが出来るようにと」 大事なことは、ニウェウス神がコロル王国を『彼の国』と表したことだ。つまり建国王直系の子孫による国家運営を指していることとなる。直系の子孫である王家を粛清して、国を建て直そうとしても修正が始まるのだろう。だからコロル王国においてクーデターが起きたり、王朝が変わることもなく千年以上、存在し続けることができたのだ。決して王国が神に愛された特別な国だからなんかじゃない。
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