34 花が咲く②

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   怜央が指し示したのは、二人で買いに行ったサボテンだった。  白いひげに覆われたようなまるいサボテンは、かつてよりも少し大きく、頭に四輪のピンク色の花を咲かせていた。 「……サボテンって、花、咲くんだ」  そんな幼稚な感想がこぼれ出る。  しかし怜央はその感想が嬉しそうだった。 「そうなんだよ。大変だったぜ、ちゃんと育てないと咲かないらしくてさ」 「もしかして、これが初めて?」 「そう。四年かけて、やっと咲いた」  怜央は幼児に話しかけるときのように、しゃがんでサボテンの花を目の高さにもってきた。 「そう長くは咲かないみたいだから。晃が今日会いに来てくれてよかった」  僕も怜央に倣って隣にしゃがみ、膝を抱える。  しばらくそうしていた。  沈黙は、むしろ心地よかった。  光は柔らかく、サボテンと僕たちを照らした。  サボテンの頭に咲くピンクは、夏を迎えるタチアオイによく似ていた。 「……怜央が、このサボテンがいいって言ったんだったよな」 「うん」 「知ってて選んだの? こういう花が咲くこと」 「うん。そうだよ」  タチアオイのことに触れようとして、しかしやっぱり口を閉ざした。  サボテンの花弁にそっと触れ、そこにはとげがないことを確認する。 「……俺、その気持ちだけで幸せだな」  僕のその言葉の真意が伝わったのか、そうでないのかはわからないが、まるですべてを分かっているかのように、怜央は笑った。  僕にはまだ、わからないことがたくさんあった。  今までどうするべきだったのかも、これからどうすべきなのかも、果たしてそれらに答えがあるのかも、わからなかった。  自分の嫌いなところをあげればキリがなかったし、自分を恨む気持ちも、一生拭えないような気がした。  砂漠は続く。  しかしその砂漠は、僕が進むたびに昼と夜を繰り返し、昼の光は柔らかく、サボテンの花を咲かせ、砂漠に色を与える。  方位磁針も地図もなく、今は誰も自分の手を引いてくれる人はいないけれど、目を、耳を澄ましてみれば、誰かが同じように進もうとしている。  それの何が不毛なのだろうか。  内心で苦笑しながら、もがき苦しんだ日々を懐かしく思う。 「まだ昼だけど、一杯飲む?」  という怜央の言葉に頷いた僕は、間違いなく、心から笑えていた。                  -fin-
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