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出ていってから一年も経っていない部屋に入ると、埃をかぶった怜央との思い出が、噎せ返るように押し寄せてきた。
閉じていた扉を開けたとき、そこにあるのは、記憶と変わらない光景だった。
押し入れは、実家を出てからどころか、怜央と別れた頃から空けていなかった。
それでも、そこにしまいこまれた高校時代のノートには、怜央のあの主張の強い字が刻まれていることは、開けなくても分かった。
借りておきながら投げだした本、そこに挟まれた彼の栞、役目を終えたマグカップ、そんな恋愛ドラマ然としたものはなかったけれども。
それよりも小さな足跡を、晃は見つけ、感傷の種にすることができた。
ともすると発芽し、ぐんぐん成長するのではないかというそれを遠ざけるために、一年間実家に寄り付かなかった。
そうするうちに、手放す勇気が顔を出し始めたことに、今気が付いた。
手放す勇気は、同時に、まっさらな気持ちで彼と向き合う勇気でもあった。
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