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電車を乗り継ぎ、怜央の家に行く。
大学院に進学した怜央の住居は変わっていなかった。
駅からアパートまでの長い道のりを、怜央に先導され、しかし自分の足で歩いた。
道中、怜央は「莉紗子と付き合ってはみたんだけど、別れたんだよね」と話した。
「俺は院生、莉紗子は社会人でさ。それぞれの忙しさを上手く理解できなくて、変に気遣ったり、遣わせたり、気遣いのなさに苛立ったりしてさ」
「そうだったんだ……」
「うん。蒸し返されたくないことだったら悪いけど、俺が晃に昔、『付き合うなら男のほうがいい』って言っただろ。あれは今でも変わってないというか、まあまだ経験が少ないから断定するには早いのかもしれないけど、やっぱり同性のほうが分かりあえることも多いと思うよ。それは人生設計とは別問題で、その点は晃の言うことにも一理あったけど、俺は晃との時間で得たものは、他のどんな手段でも得られなかったと思ってる」
怜央は知ってか知らずか、「たとえば晃が別の人と恋愛して、上手くいかないことがでてきても、それはマイナスになるようなものじゃないと思うよ」と続けた。
怜央の言葉をまだすべては受け取りきらないうちに、古いアパートに到着した。
隣の部屋から、アニメのキャラクターがプリントされたTシャツを着た女性が出てきて、こちらにぺこりと頭を下げる。
時は流れているけれど、中に入ると、そこには記憶にある部屋と変わらない風景が広がっていた。
掃き出し窓をすり抜けた光に怜央は近付く。
「これが見せたかったんだ」
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