人魚のウロコ

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ここの土地の気候は暑くもなく寒くもなく、とても気持ちいい。 2つ、文句を言うとすれば、まず、雨が降りやすい。 雨が降ると、自慢のエメラルド色の海も灰色の煙のような波を立てる。 2つめ、潮の流れなのか、浜に水死体が流れてくる。 それがなければ、住むにしても、観光にしても、とても良いところだと、思う。 僕「優吾」はそんな所に住んでいる。 にしても、最近観光客が異常に増えた。 理由はパワースポットがあるとかないとか。 場所は海につながる洞窟があるんだけど、そこらしい。 僕は友達と子供の頃はそこによく探検に行ってたものだから、なにがパワースポットって言われているのか理解できない。 が、洞窟の中から見る太陽光の入り方が綺麗だとか、洞窟の浅瀬に落ちている石がお守りがわりになるとか、とにかく洞窟が激混みするようになった。 客が外に並ぶ列を作るために鎖のスタンションまで立てられて、まるで、遊園地のアトラクションを待つ人混みに見えた。まぁ、17時には立入禁止になるけれど。 SNSでうちの街の洞窟を検索すると、中には大きな魚のウロコを洞窟内で見つけた客もいたようで、七色に光る大きなウロコを写真に撮って「まさか、人魚!?笑」なんて載せていた。 人魚なんているわけない。 でも、あんな大きなウロコの魚なんて、この辺で獲れたかな、とは思っていたが。 僕はもう大学生で、そんな昔遊んでいた洞窟に全く興味がなかった。 たしかに昔からここは人魚伝説があったが、童話の人魚姫のような、美しい話ではない。 大昔、雨が降らなかった干ばつの年に、海に1人の若い女性を海の神様の花嫁にする、という事で崖から海へ突き落とされたっていう話だ。 死んだ後流れ着いたのは、その洞窟で、下半身が魚のようになっていたと噂された。 そこから、崖の上には人魚になった彼女の石碑が建てられたが、今では手入れされていないから風化し苔生したボロボロの岩になっている。 そんな洞窟に、久々肝試しに行ってみようという友也が言った。僕を含め、4人グループ仲のいい友達だけど、酒を飲んで酔っ払った勢いで言い出したのだ。 近くの居酒屋から浜へ直行。 スマホの懐中電灯で洞窟を進む。 俺はなんとなく気が引けていたが、他の3人は盛り上がっていた。 幽霊とか怪奇現象とか起こるわけない、と思っていたげと、何故かいつもゾワリとする。 「おっと、潮溜まりに気をつけろよ。小学校の時に探検に来た時は、こんな所ひょいひょい走ってた気がするけど」 康治が言う。 「てか、夜にここへくる事は禁止されてたじゃんよ、海に引っ張られるって言って」 ここら辺のおじいやおばあは、人魚伝説のせいか、それともお盆やそういう類のオカルト系の話を用いて、この洞窟に入るのをよく止めてきた。
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