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 今時、マルボーロなんて吸っている女性を、俺は他で見たことがなかった。それも、休憩中とはいえフリフリスカートのメイド服姿で、通路に繋がる外階段の溜まり場の一角で、吐いたタバコがプカリプカリと浮かんでいる。  実に美味そうにタバコを吸う女性、多田彩花は、今日も灰色のため息を吐きながら、やり場のないストレスを空中に吹かせているようだ。俺はその横で屈みながら、チーズ入りのスティック蒲鉾をかじっている。 「美味いか、タバコ」  彩花は横目で俺を見て、若干笑んだ。 「美味いよ。仕事の合間に吸うタバコって、何というか、解放感を与えてくれるんだよね。そうだな、タバコはぎゅうぎゅうに縛られた社会からの脱却ってところかな。わかる?」 「わかる気がする」  そして、俺は思ったことを率直に言う。 「俺は強く思うよ。彩花、お前はメイドカフェなんて向いてない。お前はもっとジャンキーな仕事でもしていた方がいいと思うが」  しかし、彩花は頷かない。 「それは、どうだろうね」  そして、彩花は少し自信を交えて俺に言った。 「これでも、わたしの顔はウケる方でしょう。それに、案外萌えさせるのは得意なの。なんだろうね、わたしって昔から男を掌の上で転がせるのが上手なんだよね。だからこの仕事は向いていると思う」 「たしかに、幾度もお前に虜になってしまって、大量に金をつぎ込む男を見てきた。ただ、精神的にお前自身が限界な気がする」  ただ、ここも彩花が反論に持っていく。 「限界ねえ。でもさ、そもそもわたしはスタートもしていないから、限界なんて概念が存在しない気がする。限界って、進んでいないと定まらないものでしょう」  それもそうだ。俺も彩花も、未だ何も手にしていない愚か者だった。限界なんて見通せるほど、前に進んだこともない。
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