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私たちは知らないうちにそんな方々の査定を受けていたようだ。
ちゃんと真面目にやっていてよかった。
「果樹園のおっちゃん、強いけど魔物退治にいかないのは依頼主になるからなのか?」
「騎士隊が依頼しているけど、依頼料は税金から出ている。そのための住民税を住民は支払っている。おまえらは壁の外に住居を構えてるから戦力奉仕でとなってるみたいだな。詳しいことはおまえらの長のほうが知ってるだろ。それを聞かずに嫌だとも言わず、当然のことのようにやってるおまえらが、なんていうか、住居の信頼を得るに足りるってものなんじゃないかな」
カシムは戸塚くんにそんなふうに答えてくれた。
信頼があるのはうれしい。
住民として受け入れてくれてるのはうれしい。
「金払えば戦わなくてすむ?」
「まともにギルドやりたいなら、このへんの魔物討伐もしてギルドのランク上げが必要だと思う。騎士隊からの魔物討伐依頼はいい儲けになるはずだし。おまえは個人で金稼ぐ場所見つけたのか?」
「モモンガの大道芸で稼げない?」
「この世界には獣人はけっこういる。その日暮らしの金さえも王都でも稼げそうにない。レストだとスラム一直線だな」
「ギルドが安泰?」
「おまえがドラゴン倒せるくらい強くなれば個人で冒険者やって金稼ぎまくって家や店を持つのが安泰。ギルドは仲間がいなくなったら終わりだ」
仲間。
カシムに言われて戸塚くんは私たちのほうを見る。
みんなでいるから生きられている。
みんながいなくなったらギルドの経営なんてできそうにはない。
1人で冒険者やりながら生きるなら、どこのギルドでも依頼を受けられるような名声と実力が必要。
バイトするにも紹介してもらうのにギルド通すし。
個人的に依頼を受けるのも信頼が必要だし。
改めてなるほどなーと考える。
「魔王の強運にあやかってるのがおまえらにはいいことだと俺は思う。ここから逃げるのは自由だけど、どこにいっても誰かが助けてくれるなんて思わないこと。力もなければさらわれて売られて殺されるだけ」
「私はみくちゃんと一緒にいる」
「私も。みくちゃんについていく」
なんて私の配下になってしまってるユリとヤコは言ってくれる。
私といれば誰かが助けてくれるかもしれない。
これも強運なんだろうなとカシムを見る。
敵にならずに助けてくれること。
「ヤコはカシムにあげない」
私はカシムに言ってやる。
「マキがあのクソ犬追い払ってくれたし。ミクルが俺のペットになるんだよな?」
「なりません」
次いこ、次と私は次の人を迎えに部屋を出る。
「若様はマディのこと嫌いなんですか?」
ユリはカシムに聞く。
「あいつらスラム孤児は迷惑なものでしかなかったよ。そのリーダーのクソ犬は特に。盗みの常習犯。あいつの耳や尻尾がなかったのは闇ギルドからの制裁。人の積荷に手を出したから」
「その積荷、取り返されることなく生きてるけど?」
バナとミル。
「積荷が足りなかったって言われてから取り返しても意味ないし。すでに闇ギルドの人間は殺されているし。自分たちのものでもないからどうでもいいんだよ。二度とするなの脅しと獣人の能力奪うだけで制裁になる」
とんでもないやつだったようだ。
最初の出会いからまともではないのはよくわかっているけども。
耳と尻尾を失って得られた家族。
マディにとってはとても大切なものだろう。
「ま、それもミクルたちが面倒みてくれて、スリや盗みもしなくなって闇ギルドに面倒みろと押しつけられることもなくなった」
「アッシュとナルは?」
私は聞いてみる。
「レストは無関係。あいつらが逃げのびてきた先なだけ。アッシュがいたのは王都だ。王都のディファイアの連中に会えばバレるのかもな?」
「カシムは密告しないの?」
「巻き込まれたくもないから誰にも言ってない。言うつもりもない。それでも聖女の話からそれらしいのもここにきてるみたいだし、普段からずっと仮面つけているのがいいのかもな?」
それらしいのがきているらしい。
暗殺者。
たぶん生存しているのはわかってるから本人かの確認だろう。
子供の姿のままなら即バレていたかもしれない。
真希くんが解呪してくれていてよかった。
それでもアッシュとナルには気をつけるように言ったほうがいいのかもしれない。
言わなくても。
ナルは蘇生を私にさせることでそういう人がくる覚悟はしていたし、アッシュもしていただろう。
私が手放してあげないとした。
そもそも私たちが建てた建物に観光に人がくるのが解せない。
遠くから眺めるだけにしてもらえるように柵をつくったらいいだろうか?
生きるため。
私を信じてくれる人たちのため。
友達づくりはしなくてもいい。
全排除でもいいけど、戸塚くんのために彼女たちの話を聞こう。
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