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「地面に衝撃を吸収するものがなければ重力に潰される?」
雪原くんはそんな答えを出してくれて私は真っ青になる。
「当たり。つまり、上の窓枠にぶら下がっていれば助かるんじゃ?なんて考えても体が引きちぎられるくらいの力で下に引っ張られるのと、地面に衝突した襲撃で上に吹っ飛ばされて天井より高く跳ねるかもな?腕が縛られていたら脱臼よりちぎれると予想する。エレベーターでは地面にへばりついていれば助かる可能性があるようだけど、それは衝撃を吸収するものがあってこそのもの」
先生はなんでもないことのように言ってくれて、私は更に青くなる。
翼が欲しい。
飛びたい。
窓から逃げ出したい。
絶望しかない。
「じゃあ窓の理由はなんだと思う?」
先生はまた質問をくれる。
私にはまったくわからない。
「地面衝突の瞬間に運良く飛び出たら高く飛び上がっても天井激突は免れて、更に運が良ければ木がクッションになって受け止めてくれるってところかな?下、木ばっかり見えるし」
雪原くんが答えて先生は拍手。
当たりらしい。
雪原くん、頭がいいらしい。
先生に気に入られるくらいは理系らしい。
「ま、この高さからの落下は即死だろうし、すべて運が良ければ、にしかならないけどな」
先生は諦めている。
なにかないかとまわりを見て、新羅くんが使ったカーテンロープをほどいて頭からぐるぐる巻いてみる。
防空頭巾のような。
ないよりはマシかなと。
体もカーテンをまとってみた。
「香村、生きることへの執着はすごいな、おまえ。勉強はできないくせに」
先生はなにか一言をつけて呆れたように言ってくれる。
「生きたいので!」
「肉壁クッションは?」
先生はどこかニヤニヤと雪原くんを見る。
さっきからずっと2人でいるから、どこかなにかそういうふうに見られてしまっているようだ。
彼氏でもないけど。
「骨とか当たったらお互いに痛そうじゃないですか?」
精神的にはいいクッションになりそうだけど。
「新羅の筋肉より柔らかそうじゃね?」
先生に言われて、それはあると頷こうとしたら、男の子や女の子に囲まれていた新羅くんがこっちを見ている視線に気がついてやめておいた。
あなたのことは話しておりませんと顔を背けておく。
「なになに?俺の話してた?みぃちゃん、最期、一緒にいる?」
新羅くんは私の名前をそんなふうに呼んで近寄ってくる。
近寄ってくんな。
「遠慮します」
私は新羅くんから顔を逸らして答えさせてもらう。
「冷た。最期くらいは優しくしてくれてもよくない?幼なじみなんだし」
「そんな親しいものじゃありません。新羅くんとは幼稚園も小学校も中学校も同じだけです」
「それ幼なじみでよくない?俺のことも小さい頃みたいにさっくんって呼んでよ?」
「絶対に嫌です」
私は顔を逸らしまくる。
雪原くんのほうがいい。
なに、この馴れ馴れしいやつ。
まぁ幼なじみなのかもしれませんけど。
小さい頃はさっくんって呼んでましたけど。
こんな筋肉ムキムキなんて知らん。
「フラレてますな、新羅」
「ね?悲しいですよね。男だとか女だとか意識してる思春期嫌い」
新羅くんは愚痴のように先生に言う。
それは私に言わないでもらいたい。
中学のとき、なにもわからずに新羅くんと話していたら女の子に虐められた。
嫉妬された。
それが引きずられて今がある。
私が新羅くんをイケメンだったんだと認識したのはそれからだ。
近寄りたくはない。
最期かもしれないけど。
生きてやる!
「みぃちゃん、雪原とつきあってる?」
新羅くんは不満そうにそこにいた雪原くんを見て言ってくれる。
「つきあってません」
まだ。
生き残れたら彼氏になってもらってもいい。
それくらいの好意はある。
「じゃあ、なんでこんな非常時でも俺を邪険にするんだよっ?」
「あなたに頼りたがってる女の子はたくさんいるようなので」
ということにしてみた。
教室の中のほうを見ると、こっちを見ている数人の生徒。
「筋肉馬鹿なだけの運動神経あったってどうにもならない状況なのにね」
続けて言ってあげると、新羅くんが怒ったように私に絡んできた。
私はカーテンにくるまって逃げる。
「みぃちゃんは勉強も運動もできないだろうがっ。生きる根性だけはあるみたいだけどっ」
「生きたいので!」
「俺だって生きたい!童貞で死にたくないっ!」
「嘘だ。彼女いたでしょ」
「彼女いたけどキスもしたことないっ!あ、うそ。キスはある。みぃちゃんと。小さい頃」
やめていただきたい。
そんな事故のようなものを数に入れないでいただきたい。
「絡まないでください。あっちいってください」
「やだ。……どうせ落ちるなら、俺とここから飛ばない?みぃちゃん」
がしっと後ろから抱きつかれて、ここと言われて窓の外を見た。
絶対に嫌だ。
高層ビルの高さから飛ぶは死のうと言ってるのと同じだ。
「カーテンで空気抵抗増やして飛んでも無理だと思うぞ」
先生はなにか忍者のようなことを言ってくれる。
そんな技量もない。
建物と一緒に落ちるか飛ぶかしかないのだけど。
ヘリが迎えにきてくれればいいのに、ここがどんな世界なのかもよくわからない。
日常に帰りたい。
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