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助けてと叫んだところで誰が助けてくれるのか。
この世界で生きる人が自分の命を奪わないとは限らない。
床はピシピシ音をたてて、今にも崩壊しそうだ。
ぐらぐら揺れてるのは地震ではないだろう。
沢くんがなにを思ったのか、その床を壊そうとしていそうなものに近寄って、引きはがそうとしだした。
江藤くんも沢くんに協力するかのように近寄っていく。
男の子2人でも動かないようだ。
全力でなんとかしてくれようとしているのは見える。
沢くんや江藤くんと仲良くしているギャルな女の子たちグループも近寄っていって、みんなでなんとかしようとしてくれていた。
でも、そこ、亀裂入っていて危ない。
あんまり人数が乗ったらよくない。
ハラハラしながら見守っていたら、案の定とばかりに床が割れた。
バキッとコンクリートが割れて、慌てたように退避できたのは沢くんだけ。
悲鳴をあげてあいた穴に落ちていくギャルグループの女の子たち。
江藤くんは偶然のようにコンクリートの間にあったらしい金属の枠に引っかかって落下しなかった。
沢くんや先生や男の子たちが江藤くんを引き上げる。
引き上げてから穴を恐る恐ると覗き込んでいる。
「誰かはいるような気もする。道あるけど森だし見えない」
「マミたち死んだかな、これ」
「普通なら死ぬよな。異世界、親切説でお願いします!レイズデッド!」
「ザオリク!」
なにか祈るようにゲームにある呪文を唱えてる。
もう頭は真っ白でなにを考えていいのかわからない。
ここで死ぬ覚悟はあるようでない。
まだ死にたくない。
足掻きたい。
落ちていった生徒たちと話したこともなかった。
それでも顔はわかるくらい知ってる。
もうやだもうやだと泣きまくる女の子たち。
私も同じ心境ではあるけど泣けなかった。
ただ雪原くんの腕にくっついて震えていた。
雪原くんは私を引き剥がそうとすることもなく、そのままでいてくれる。
ただそれだけが今の私の心の拠り所になっている。
このまま教室が壊されて全員落下。
それが1番考えられること。
ガシャンっと機械音のようなものがして、気がつくとまたあの槍が伸びてきていた。
穴のあいた床から伸びてきて、さっきよりも大きくその先端を開いて、また床に引っかかってくる。
「あれ、なんか引きずり下ろそうとしてる…よな?」
雪原くんが言って、そう言われればそうなのだろうけどと、あの人為的な動きがある槍を見る。
引きずり下ろされたら、さっき先生が言っていた落下と衝撃で全員死ぬとしか思えない。
「だから引っ張るなってーっ!壊れるからっ!」
「床、全部抜けるほうが早いからやめてくれーっ!」
男の子たちは叫びまくる。
床がピシピシ音をたてて、ぼろぼろ崩れているのがわかる。
「先生、助けてよっ!」
女の子は悲鳴のように声をあげる。
「なんとかできるように見える?」
「大人なら知恵出せっ!」
なにかむちゃなことを言ってる。
でも知恵があるなら借りたい。
全員同じ気持ちで先生を見たと思う。
「床が崩れて落下しないように、さっきの江藤みたいにワイヤーメッシュに引っかかるようにするとか?」
先生は困ったようにそんな話をしてくれて、そのワイヤーメッシュがどこにあるのか全員、その場で確認。
「全部床が抜けたらワイヤーメッシュごと持っていかれる可能性もあるけど、窓枠にしがみついて落下しないようにしても床が抜けたらしがみついているのも疲れるだけだろうしな。そのときは潔く落ちよう」
先生はそんなところまで話してくれて、窓際にいる私は床と窓枠を交互に見る。
確かに落ちなくてよかったーと言える状態になるとは限らない。
それでもこの端のほうまでは床がまだ亀裂も入っていないからワイヤーメッシュもわからない。
雪原くんから窓枠にしがみつく先をかえてみた。
「なんなの?この絶望感」
「先生、なんとかしてくれよぉ。死にたくねぇよっ」
男の子たちはワイヤーメッシュがあるあたりに並んで先生に頼るように声をかける。
「俺は便利な道具は持ってないよ、のび太諸君」
「のび太大量かよ」
そんな会話を交わせるくらいには楽天的なのか、諦めができたのか。
先生は諦めている顔だと思う。
慌てず騒がずは大人だからというより、どこか先生の性格のように思う。
床という地面はグラグラしている。
雪原くんも私と同じように窓枠に手をかけている。
私は鞄を背負って、生きられたらせめてここにあるご飯だけでも確保としている。
諦めてはいない。
「香村、雪原、窓でいいのか?」
先生は私と雪原くんに近寄ってきて声をかけてきた。
「ワイヤーメッシュがどこにあるのかもわからないので」
雪原くんが答えて、私はこくこくと頷く。
「まぁ慣性の法則で言えば窓のほうがいいのかもな」
先生は少し考えてそんな言葉。
「なんですか?ニュートン?りんご?」
「落下中の人間は建物の中だとどうなると思う?」
先生はいきなりそんな話をしてくれる。
「浮く?」
「浮かない。同じ速度で同じように落下する。体にかかる重力で身動きとることもできなくなる。無重力のように感じても同じ速度で落下する。これはガリレオがやった斜塔の実験な。地面に叩きつけられたときどうなると思う?」
理系先生、やめて?
私、そういうの無理です。
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