木崎綾音.6

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「本当に?」  白石刀哉は寂しそうに微笑んでから頷き、「きみ以外に好きな女性はいなかったんだよ」とつづけた。 「……そう」  急に目頭がカッと熱くなった。鼻のおくがツンと痛くなり、唇がふるえた。目をふせると、熱をもった涙のつぶが頬をつたってながれ落ちた。 「ありがとう……っ」  白石刀哉に礼を言った。  兄の世界を見てきた彼が断言するのだから、それが真実なのだろう。すとんと胸に落ち、染み込んだ。  兄も私のことを特別な意味で想ってくれていた。私だけの片思いじゃなかった。彼の口からそう聞けただけで、もう充分だ。  ただひとつ、兄への遺憾をあげるとしたら、気持ちをつたえられずに離ればなれになった―――ということだから。  すん、と洟をすすると、例によってしょっぱい味がして、なんとなく笑ってしまう。 「私、思ったんだけどね。兄が眼の移植をしようと思ったのは、もしかしたら私のせいかもしれないの」 「え?」 「一度兄に言ったことがあるの。その茶色い瞳が綺麗で、大好きだって」  彼は口をむすび、無言で思案していた。 「直接、兄自身を好きだと……告白することはできなかったんだけどね」
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