 第五章 古の大図書館 

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 第五章 古の大図書館 

   ぴちょん、ぴちょん。  天井から垂れる水滴。  薄暗いトンネル。  二種類の水のはねる音が響き渡る。  びしゃ。  ひとつはブーツ、そしてもう一つは革靴。  履いてきたままの革靴はびしょぬれ。  どうせなら防水のやつ買っとけばよかった。  くつ下までびしょぬれな予感。 「昔、城から抜け出すときに、つかってな。」 「それから、図書館からは入れなくなったんだが……。ソコまでは行けるはずだ。」  そう言って松明を掲げるナツ。  松明をゆらし、湿った木の扉をブーツで押す。  きぃぃと古めかしい音をあげながら開く扉。 「頭、気をつけろよ。」  と言いながら、若干ひくい湿った梁の下をくぐる。  なんというか、かび臭い。  独特のにおいが充満した空間。  細く、ところどころに水のたまった通路を通る。  ところどころに落ちた手書きの紙が印刷所っぽい。   脇に置かれているのはカピカピになったインク。  置きっぱなしの本。  大きな製本用の機械。 「水漏れがひどいな。さてはあいつら配管いじったな。」 「うわっ。なんかついた。」  頭の上に手をやると何とも言えない濁った水。 「なんか、ばっちい。」 「やっぱ、汚いな。ほらっ、コレでふいとけ。」 「うん、ありがとう。」   「ね、あれってまだ動くのかな?」 「どれだ?」 「ほらあの機械。」  私は奥にある大きな木製の機械を指した。 「ああ、あれか?」 「うん。そうあれ。」  そこにあったのは大きな木製の機械。  もちろん現代いまの時代にあるような機械じゃなくて、手動の機械。  ぎっこん、ばったんするやつ。  濡れてるけど見た感じまだ動きそう。  試しにレバーを回してみるとギイという音がする。 「昔の印刷機っぽいな。」  そんなことをしていると一枚の写真が目に入った。  写真というよりは絵なのかな。  印刷機の影に完全に隠れた一枚の絵。  埃を落とすと、大きめの帽子をかぶった人。  その肩には何か白いもの。  その周りには真新しい印刷機のに向かい何か作業をする人々。  奥には紙の束が積み上がり、その隣には破けた紙が積み上げられていた。    「これ、大昔、の印刷所の絵だな。まだ残ってたのか。」 「じゃあ、これもその大昔の機械?」 「たぶんな。前の戦のときに全部燃料にしたらしいからな。その残りだろ。」 「さ、もう少しで目的地だ。」  ☆☆☆  ギィィィ。  何年も開いていなかったようなきしんだ音。  古い木の扉が重い音を立て開く。  扉の先にあったのは古い図書館。  ごおおおっ。  壮大に、雄大に流れ落ちる滝に苔むした床。  はるか上からの差し込む光。  そして、壁沿いに張り巡らされた本棚。  あちこちに積み上げられた本。  水面の底にもたくさんの本。 「大昔の図書館の跡だ。もうだいぶ、沈んでしまっているが。」 「ここなら、探し物もみつかるだろ。」  そう言うとナツは透き通った水の中へと沈み込んだロープを手に取り、引っ張った。 「船?」 「大昔、は通れたらしいんだがこの先はそのとき使ってた船でないと、進めないんだ。腰まで水につかりたくはないだろ。」 「さ、いくぞ。」  滝の裏へと進んでいくボート。  苔むした、本棚の通路は少し暗い。  ナツのオールを漕ぐジャブジャブという音が狭いトンネルにこだまする。  水面に目をやると時々水面に影。 「ね、アレ、なに?」  水面を指さす私。  ガツン。  大きな音で船にもあたる何か。  揺れる船上。 「流木か?」  ナツがよっと立ち、器用に片方のオールでその物体を押す。  すると不思議と船はすいすいと推進力を取り戻した。 「何だったんだろっ?」 「さあ?妖精の類だろっ。」 「昔からの言い伝えにもあるしな…。」  ナツの言葉とともに、明るくなるトンネル内。  苔むした壁は一面の本棚に変わり、ところどころあけられた採光用の穴からあたたかな日差しが差し込む。  奥には台におかれた一冊の開かれた鎖のついた本。  その周りには豪華な装飾の本。  ナツによれば、大昔に作られた勇者を呼び寄せる本だとか?  とにかく、古い本らしい。  私たちはあたりにあるそれらしき本をカバンに詰めると、出口へと向かった。  ☆☆☆ 「このへんが、外に繋がってたはず。」  そう言ってナツは桟橋に船を横づけすると器用にロープを岩壁の上へとあげる。  ひょいっとオールも岩壁の上へと挙げようとする。 「あれ、重いな。」  オールは水に沈んだまま動かない。 「手伝おっか?」 「何か絡まってるみたいだ。」  オールの先を見ると白い物体。  引っ張ろうとした衝撃で浮いてきたのはびりびりに破けた紙と何かに食べられたのかところどころ穴の開いた本。  水にぬれてるだけあって結構な重さ。 「こんなのが水の下に…。」 「さっきのはこれだな…。」  オールについた紙きれを一枚一枚取り外すナツ。 「そろそろかもな…。」  ぼそっと何かつぶやくナツ。 「えっ、なんて?」 「いや、何でもない。」 「ほらっ、手をかせっ。登れないだろっ。」  そう言って岸壁の上へ引き上げてくれた。  ☆☆☆  パカッパカッ  地をかける蹄の音。  流れていく景色。  ヒヒーンと馬の鳴き声。  地上へでた私たちはナツの馬車でお城へ向かっていた。  もちろん、靴は履き替えて、なにせ、びしょびしょだったから。  キキィ。  ガタン、と大きな揺れ。  背中が背もたれにぶつかる。  突然、動きを止める馬車。 「どうした?」  カーテンを開け、御者に声をかけるナツ。 「それが、殿下、ご友人だとおっしゃられる方が…。」  御者の言葉が終わらないうちに開く扉。  そしてぴょこんと金色の髪のドレス姿の女の子が顔をだした。 「あら、こんなところにいらしたのね。」
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