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第七章 舞踏会の幕開け
♪♪♪
きらびやかなシャンデリアの下、華麗な音楽が響き渡る。
私はレイアちゃんが縫ってくれた白の結婚式に着るようなかわいい仕立てのドレス。
ナツは青っぽい昔の偉い貴族の人がよくきてそうな服装。
手慣れているのかぐんぐん前に進むナツ。
繋いでいる手に引っ張られていくだけの私。
ナツといっしょに歩いていると場違い感がひしひし。
「別にそんなに気にすることないだろ。あんなのもいるしな。」
とナツは宴会場のすみっこでお肉を引きちぎりあう男たちを指さす。
「俺の肉だっ。返せボケっ。」
「あぁああっ。お前の肉なわけないだろ。」
「こいつは俺の肉だ。返せ。」
「何言ってんだてめぇ。俺の肉に決まってんだろっ。」
「あぁああっ。お前やんのか。」
「あぁああぁあぁっ。んんで、俺の肉をお前と取り合いしなきゃいけねぇんだよっ。」
「ああぁあぁっ。おら、やんねえのか。やんねぇんだったら喰っちまうぞ。」
トントン。
様子を見ていたライアさんが肩を叩く。
「あぁぁああああっ。んんで、お前が喰う前提になってんだよっ。」
でも気づかない。
トントントン。
再び肩が叩かれる。
「あぁぁっ。んんだよ。てめぇ。さっきからうるせぇぇな。こっちは取り込み中なんだよ。」
ようやく振り向く男。
「あっ。」
「騎士様…?何か御用で…。」
男の大きな口から小さな言葉が漏れる。
彼の視線の先には笑顔で柄に手を添えるライアさん。
「少し、外まで、よろしいですか?」
そうにっこりと笑顔でつぶやいた。
「ま、変なことしてなきゃ、大丈夫ってことさ。」
ケーキをつまみながら、うまくまとめるナツ。
数分後、彼らがお城の外へと放り出されたのは言うまでもない。
水面に浮かぶ彼らにかかる落ち葉。
「うえ、きったねえ。」
「のんじまった。」
「オエッ」
空には美しい満月が輝いていた。
☆☆☆
「わたしと踊っていただけますか?」
「もちろん。」
ふわりと揺れるドレスをひらめかせナツの手を取る私。
シルクのような手袋をした手はヒンヤリとしてきもちがいい。
「うわぁっ。」
「もっと力抜いて。」
ナツはダンスを刻みながらこっそりと、アドバイスをくれた。
「こう?」
「足も…。曲に合わせてゆったりと。」
「こうかな。」
「もっと、優雅に、そして軽やかに。」
「えいっ。」
私は勢いよく足を空へと突き出す。
「そう、その調子。」
いたって順調に進んでいく舞踏会。
私のダンスも上達し始めた時、問題は起きた。
不意に止まる音楽。
代わりに聞こえてきたのは女の子の甲高い声。
「ちょっと、どういうことよ。聞いてないのだけれど。」
人ごみをかき分けて出てきたのは昨日馬車に押しかけてきた女の子。
頭に大きなティアラをのせ、近づいてきた。
「どうしたも、こうもないわ。これはどういうことなの。」
そう声を上げるお姫様は白いテーブルクロスが欠けられた机の下を指さす。
試しに下を覗くとナニカ白いもの。
机の下のオレンジジュースの瓶をつんつん。
「ちょっと、贈り物に何てことしてくれるのよっ。」
昨日、夢で見たような?
覗いている私と目と目が合うナニカ。
ナニカはくぴっと首をかしげるようなしぐさを見せるとこちらへと近寄ってきた。
「こんな汚いものを城に入れるなんて…。まったくどうかしてるわ。」
女の子は手に持った棒でしっしっとやりながら後ずさる。
コツン、壁が背中に当たる。
姫は壁にかかったロウソクを取ると
「ちょっとこれ以上近づいたら、こうよ。」
ぱっとろうそくを構える姫。
餌でもくれるかと思ったのか、さらに近づいていく虫さん。
「ちょっ、こっちにくんな‥。」
慌ててろうそくを振り回す、姫。
ぽっと勢いあまって飛んでいくろうそく。
ぼっ。
近くのテーブルから焦げるようなにおい。
酒や布に引火し、あっという間に広がっていく炎。
あわてて外へにげようとする人々。
水をかけ、消そうとする騎士たち。
奥にあった、姫の贈り物に引火し、さらに燃え広がっていく炎。
「姫こちらへ。」
お姫様を誘導する護衛の騎士さんたち。
「ちょっ。私の惚れ…ぐ…が…。」
お姫差は何かを叫びつつ、引っ張られていく。
そのとき、地震みたいにグラっと大きく揺れるお城。
人々の騒ぎ声。
ガッシャーん。
ものすごい音とともに落ちてくるシャンデリア。
外に出ようとする私達の前に立ちはだかる炎。
「殿下!」
ライアさんの声。
「俺たちは大丈夫だ。招待客の誘導は頼んだ。」
「だが…。」
その間にさらに勢いを増していく炎。
火の粉が飛び交いすでに向こう側の様子は見えない。
「春、こっちだ。」
私の手をぎゅっと握るナツ。
「でも、もう出口は…。」
「大丈夫。幸い、まだ火は廻ってない。」
宴会場の隅っこにある本棚まで移動すると、いくつかの本を動かすナツ。
カチっっと鍵が開くような音。
「秘密の抜け道だ。みんなには秘密だぞ。」
しーっというポーズをとるナツ。
ナツは映画のように扉を開けると、下への階段を進んだ。
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