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第一章 はじまり
朝のあたたかな日差しが閑静な住宅街を照らす。
春を迎えた町は桜色に染まり、小鳥は春の音楽を奏ではじめる。
遠くから聞こえるのは電車の音。
ガタンゴトンと今日もたくさんの人と荷物を載せて走り出す。
駅にはたくさんといかないまでの人々。
そんないつもと変わらないこの町の景色の中に一人の少女がいた。
「ドアが閉まります。」
「駆け込み乗車はおやめください。」
ピンポンパンポーン。
電車のドアが閉まるアラーム音が朝のホームに響きわたる。
けれど私は止まらない。
「待って~まだ乗りま~すっ。」
そう声を上げるとドアを目指して一直線に階段を駆け下り、ドアの隙間目指して飛び込んだ。
☆☆☆
私、二条瓦春、この春から中学二年生。
青春、真っ只中。
特技は折り紙を折ること。
趣味は読書。
なんでかって?
だって読んでるとうきうきするし…。
ドキドキするし、なによりワクワクする。
それに楽しい。
あっ~今日は図書館で何の本借りよっかな?
夢や魔法のファンタジー?
それとも宇宙を駆け巡るような大冒険をする
SF?
それとも、それとも、ちょっと難しい
純文学?
ロマンチックな王子様と出会う恋愛モノ?
それともそれとも…?
そんなこと考えていると遠くで、キーンコーン、カーンコーーンと鐘の音。
「いっけない。遅刻だ~‼」
私は学校へとつながる坂道を多いそぎで駆け上がった。
ガラガラッピッシャーン。
大きな音をたて、教室の扉を開くとクラスメイトの吉泉がでで~んと立ちふさがっていた。
吉泉は私とは幼稚園から一緒で家も近所。
頭が良くて生徒会長やってるんだ。
いつもは一緒に登校するくらい仲がいいんだけど今日はこのありさま…。
気のせいか吉泉の頭にお怒りマークが見える。
「まったく、春の、お・ね・ぼ・う!何時だと思ってるの!今日の朝、待ってたのに来ないし…。おまけにお弁当は忘れてくし…。」
「ごめんって。」
「てっお弁当?なっ、なっんでそれをっ。」
朝は、苦手なのだ。
「春~。おべんとうもった?」
「いみゃ、たみがき、しゅてる。はらあふぉで。」
眠そうに歯磨きしてた朝の光景が目に浮かぶ。
「もうしょーがないな。はいこれっ、お母さんが朝、届けに来たよっ。」
そう言って吉泉は紙袋を渡してくれた。
「以後、気を付けること。」
「は~い。」
「ん?でもこれ、なんかお弁当のほかになんか入ってるくない…?」
袋の中をのぞくといつものお弁当箱と一緒に
「春のスケジュール帳?」
ゴソゴソと紙袋の中をあさるとお弁当箱といっしょに入ってたのは一冊の四角いスケジュール帳。
開いてみると上から下まで予定がびっしり。
五時半、起床に始まり、果ては歯磨きやお風呂、勉強の時間まで書いてあるよ…。
「ああ、それね。担任の先生がついでにこれも持ってて、やれって。」
「まあ、でも、いっつもマイペースな春にはちょうどいいかもね。それと、後で職員室来いってさ。」
ああ~っ。
先生、ごめんなさい、それたぶん。
できる気が…しません。
☆☆☆
キーンコーン、カーンコーン。
キーンコーン、カーンコーン。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「今日はここまで、各自、流れ解散。宿題、ちゃんとやっておくように。」
黒板に書かれた問題集64ページという文字をコツコツと叩くと先生はチョークを置いて出て行った。
「ふぁ、やっとおわったー。」
わたしはうーんと手を伸ばして背伸び。
今日はいろいろあって疲れちゃった。
昼休みは担任の先生に呼ばれてみっちり絞られてたし…。
図書室にはいけなかったし…。
「ねえ、春、国語のノート見せてくれない?保健室いってていなかったから。」
真後ろの席の吉泉が肩をたたきそう言う。
吉泉は運動が苦手。
小さいころもよくけがしてたっけ。
「いいよ。はいっ。」
私は紺色のカバンから今、しまったばかりのノートを取り出す。
「ありがと。すぐ写すから、帰るの、待ってて。」
「?」
「ねえ、春なんか挟まってるよ。」
ノートに挟まっていたのは四角い紙切れ。
本の返却期限の紙?
そういえば、小テストの勉強用にしおり代わりにはさんだような~。
はさんでないような~。
そういえば、本借りてから…。
どのくらいたったっけ?
返却期限とかかれた小さな文字がを見つめる私。
返却期限、4月15日
えっと、今日は⒒,⒓,⒕,⒖,⒗…。
私は日にちを指折り数える。
って期限過ぎちゃってるよ!
「ごめん、吉泉、ちょと図書室行ってくる。ノート、写し終わったら,その辺、置いといていいから。」
「うん、待ってる。」
急いで階段を下り2階の図書室へと向かう。
まだ、やってるかな?
本、片手にガラッと図書室の扉を開く。
「すみませーん、本返しに来たんですけど。」
カウンターでそう叫んでも誰も来ない。
今日は係りの子たち帰ったのかな。
しーんと静まり返る受付。
いつもは掃除の子たちや頭をツンツンさせた走り回る子たちもいるのにな。
もう帰っちゃったのかな?
「係りの子が来るまで待ってようかな…。」
わたしはまだ、期限の来ていない昨日読んでいた本をカウンターの上に置くと図書室の中をうろうろする。
しょうがない、自分で返しに行くか。
ついでに、次に読みたい本でも探そっと。
一応、私、これでも図書委員長だからねっ。
どこになにがあるか、全て把握ずみなのだ。
次はハッピーなもの読みたい気分?かな?
それにやっぱりファンタジーはハッピーエンドじゃなきゃね。
えっと、文学だから…。
あっ、あったここ、ここ。
昨日読んだ本は…。
確か、この辺?
ごとっ。
図書室に響く大きな音。
「何の音だろ?」
まだ、だれかいるのかな?
そう思い、音が聞こえた方へと向かう。
ここ歴史の本とか置いてあるところだよね。
背の高い本がいっぱいで本棚の威圧感がすごい。
そうこうしているうちに一冊の本が床に落ちているのを見つけた。
ほこりたっぷりのすすけた本。
何が書いてあったかもよくわからない。
バーコードもついてないし…。
持ち上げるとじゃらりと鎖が落ちた。
とっても古い本の予感。
ところどころに虫食いもあるし。
そもそもこんな本うちの図書室にあったっけ?
この辺に置いといて明日、司書さんに聞いてみよっと。
誰かの忘れ物かもしれないし。
☆☆☆
「もう春っ~。何時間待たせる気?。」
「ごめん。ごめん。それよりノートはもういいの。」
教室で待っていてくれた吉泉に慌てて手を合わせる。
「もう、とっくに写しおわったよ。これ返すね。」
「うん。」
「ごめんね。遅くなっちゃって。」
「ううん。いつものことだもん。それより、早く帰ろっ。この時間だと電車混むし。それに今日、塾じゃなかった?」
「あっ~そうだった。」
私は頭を抱えながら学校を出たのだった。
☆☆☆
駅に着くとたくさんの人、人、人。
普段はもっと空いてて、列ができるくらいでこんなにはいないはずなんだけど…。
「春~。こっち、こっち。」
吉泉が手を振り上げて私を呼ぶ。
「電車、止まっちゃってるみたい。」
電光掲示板には運行休止と折り返し運転の文字。
さすがにこれじゃ混むよね…。
だって黄色い文字祭りだもん。
「しょうがないから、バスで帰ろっ。時間かかるけど。」
「確かこのくらいの時間にバスあったし。」
☆☆☆
「次は~、次は~、。お降りの方は降車ボタンを押して…。」
久しぶりに聞く車内アナウンス。
それにつられたのか吉泉が口を開いた。
「そういえば路線バスで帰るの、久しぶりだよね前に乗ったのいつだっけ。」
「うん、中学まではよく乗ってたけど、高校になってからだと台風以来じゃない。」
「ところで、さっきから気になってるんだけど、ソレ、何?また変な本借りてきたの?」
吉泉は私のカバンからのぞく、図書室に置いてきたはずの本を見てつぶやいた。
しーんと、静まり返った空気に本棚の威圧感。
誰も座っていない椅子に、開きっぱなしの本。
書きかけのノートに置きっぱなしの鉛筆。
そして、忘れ去られた本たち。
どこか、現実離れした、でもどこか安心感のある光景。
はしごは揺れ、カーテンをあおぐのはそよ風。
誰のいないカウンターの上。
ページはめくられる。
そして鉛筆は転がり落ちた。
☆新人賞用に作っていたのですが、落っこちてしまったので(>_<)投稿してみました。一章、一章が長いので、電車とかで読むのは不向きかも…。お星様をいっぱいくれると、うれしいです。
☆しばらくは土日の更新にするかもです。
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