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部屋から出ろ、と言われても出口はどこにも見当たらない。食事が出てくるところだけが外と繋がる唯一の場所であるように思えるし、トイレはあるものの、さすがにそこから出ることは不可能だ。換気扇の口も十センチ四方で赤ちゃんですら通り抜けられない。みんなで壁やら床やら触り倒してどこかに出られそうなところはないかを必死で探した。壁は叩くと、向こう側が空洞なのか響き、床も同じである。一度スーツが跳んで着地したとき、部屋全体が微かに揺れた。壁か床のどこかをぶち破ることができるのではないかという案が出た。みんなで蹴ったり叩いたりしてみたが、そう簡単には壁や床に穴を空けられなかった。また壊すための道具になりそうなものはなく、素手でやるには時間がかかり過ぎるだろう。
私は高い天井の、少し下にあたるところから細い光の筋が微かに見えることに気づいた。私がそこを指さすと、歓声があがった。
「よく気づいたな!」
「きっとあそこから出られる!」
と、喜びを共有したのも束の間、場所が高すぎて、そこまで届かないのだ。一番背の高いのはナイスミドルだが、ナイスミドルを二人半垂直に立てたら届くか、届かないか、くらいで、その高さを出すのが難しい。
ナイスミドルの次に背の高いのがスーツだ。スーツは筋肉質で重たそうである。自分が土台になる、と立ったまま壁に貼り付いた。その上にナイスミドルが立って隙間に手を伸ばしたところ、やはり高さが足りない。その上に更に人を立てよう、ということになった。主婦が最初に名乗りを上げたが、彼女は体重があり、自分の体を自分で持ち上げるだけの筋力もないため、まずナイスミドルの上まで行くことができなかった。その様子を見ていたネグリジェは自分もできないと泣き出し、残り物の私の番が回ってきた。私はこの中で一番若く、痩せている。筋力はないが、軽いのでスーツとナイスミドルの負担にはならないかと思っていた。しかし、運動神経のない私はナイスミドルの上に行くまでに時間がかかってしまう。私も無理です、と言おうとしたら、他に選択肢はない、とみんなから言われ、ナイスミドルの上へ行く練習が始まった。ネグリジェもやってみればいいのにと思ったが、ヤツは泣いてその役を免れようとしていた。
練習して三日目に、私はナイスミドルの両肩に足を乗せ、立つことができた。主婦とネグリジェから拍手が起きる。私はそのまま手を上に伸ばし、隙間に触れようとした。
が、届かない。
下から、もう少し上よ! だの、頑張って! だの聞こえてくるが、もうこれ以上は無理だ。ナイスミドルの肩の上で跳ぶ、ということも頭によぎったが、肩の上に立つのにはバランスを保つことが必要で、このギリギリの均衡を保った状態で跳んだりしたら、足を踏み外して床に叩きつけられるかもしれない。私は腕を伸ばし、指先まで伸ばせるだけ伸ばしたが、あともう少しのところで届かないのだ。
この、あともう少し、というのは曲者だ。もしかしたらいけるかもしれない、という期待が生まれる。私たちはその期待にすがり、何度も試したが、結果は同じ、あともう少しなのに、で終わる。
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