指の先

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 一週間まであと一時間、となり、私は絶望感に打ちのめされていた。あと一時間で上へ行けたとして、そこから出られる保証はない。ただここから光の筋が見えるというだけなのだ。他の方法を模索してこなかった。私たちは、間違った答えにすがりつきすぎたのだ。  スーツはもう一回、もう一回、と言っているが、本当のところはどうなのだろう。もう無理だとわかっているのではないだろうか。空元気というヤツで、みんなの士気が下がらないようにしているだけなのではないだろうか。  主婦は震えている。彼女も私と同じく絶望感に打ちひしがれているようだ。  ナイスミドルは両手を腰に当てて、うろうろしている。何か方法がないか考えているようだが、このギリギリで何か思いつくだろうか。  ネグリジェはトイレに入って出てこない。この瀬戸際に便意を催したのだろうか。  おじいさんは相変わらず寝ている、というか死んでいるように見える。私はふとおじいさんに近づき、息をしているかどうかを確認してみた。じっと見ていると、微かに胸が上下している。生きているのか。一週間も飲み食いせずに人は生きられるんだなあと、マジマジとおじいさんを見た。胸は上下している。確かに上下しているけれども。  生気を感じない。
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