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はしる、はしる。
「位置について!よーい!」
先生の声と共に、私はぐっと足に力をこめる。目指すは真っ直ぐ、目の前のゴール。前回よりも絶対いいタイムを取るのだ。四年生からサッカークラブにも入ったし、きっと足だって速くなったはずである。
「どんっ!」
空砲が鳴った。私は地面を力強く蹴って走り出す。体をやや低く屈めて、一歩でも一秒でも早く前へ、前へ、前へ。隣を走っている子がどんどん後ろに置き去りにされていくのに気づいて、少しだけ優越感に浸った。そしてすぐに後悔した。駄目だ、他の子を気にしているような暇なんかないはずなのに!
――ゴール!
勢いよく最終ラインを飛び越えて、私はややよろめきつつも速度を落とした。少しばかり歩いたところで、全力疾走に息を整えるべく外れた場所に座り込む。ストップウォッチで計っていた補佐役の生徒から、自分のタイムを聴かせて貰った。
8秒69。ベストタイム、には違いないけれど。
「お疲れ、真希ちゃん」
走り終わった子の待機場で、クラスメートの冬乃ちゃんが手をひらひら振っている。ぽっちゃりタイプ、運動するよりお絵かきとご飯が大好き。そんな彼女は、体育の授業が苦手な子の一人だった。
「五十メートル走ってほんと嫌だー。マラソンよりはマシだけど。なんていうか、足の速さで格差ができそうっていうか?これもスクールカーストじゃないのーっていうかー?」
「大袈裟だなあ、冬乃ちゃんは。五年生にもなって、そこまで気にしてる子そんなにいないって。大体、冬乃ちゃんは絵がすごく上手いんだからいいじゃん。私よりいいって」
「ええ、どこがあ?」
ぷー、と冬乃ちゃんは頬を膨らませる。
「そりゃ、絵は得意だけどさ。特別な何かに選ばれるわけじゃないんだよ、リレーの選手みたいに。逆で目立っててほんと憂鬱……あたし11秒以上かかったんだよ。プロの選手は百メートルをこれより早く走るっていうじゃん、マジでがっくりっていうかー」
まあ、冬乃はクラスでもかなり足が遅い方なのは間違いない。最下位じゃないだけいいじゃないか、と個人的には思っておいたが黙っておいた。自分が言ってもイヤミと受け取られるだけだ。
「そりゃ、私はリレーの選手に入る可能性高いけど」
私は体育座りをして、ぽふ、と膝に顔を埋めた。
「でも、冬乃ちゃんは絵で一番で、金賞とか取ってるけど。私は一番じゃないんだよ。どうせなら、何かで一番になりたいじゃん。私、多分今回も長塚さんに勝ててないんだよ……」
「あー、まあ……」
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