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俺はしばらく放心状態だったが階段の下から人の気配を感じた。
嫌な予感がする。
「ちゃんと告白できたじゃない」
声の方向を見ると岩崎さんが壁にもたれかかって立っていた。
自分の子供にするような優しい笑顔でこっちを見ている。
「岩崎さん…見てたの?」
「うん、この眼でバッチリと見てた。カッコよかったよ」
「振られたのに?」
「それはカッコ悪かったのかもしれないけど」
「ちょっと」
「うそうそ、冗談。
告白なんてギャンブルみたいなものじゃん。
勝つのがわかってる勝負なんて面白くないよ。
だから成功率が五分五分とか、それ以下で告白できる人は凄いと思うしカッコいいと思うよ」
「岩崎さん…」
「まぁさっきのはほぼゼロ%だったと思うけどね」
「え?」
「冗談冗談」
岩崎さんは上機嫌そうだった。
聞くなら今かもしれない。
もうこれ以上恐れるものはない。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「もしかして、既にカップルになってる女子たちに、あえてフリーのフリをさせて俺に告白させてた黒幕って岩崎さん?」
突如岩崎さんは真顔になった。
「なんでそう思ったの?」
その質問は、自分が黒幕だとほぼ認めているようなものだ。
「だってそもそもこの告白連鎖が始まった最初が岩崎さんだし、もしかしたら岩崎さんだけは本当の告白で、俺に振られた腹いせで俺を一瞬喜ばせてから地獄に突き落とそうとしてるのかと。いくらアホな俺でも偶然が続けば人為的に告白されてるくらいは気付くし」
彼女はまだ真顔で一点を見つめている。
「うーん。半分正解で半分不正解かな。
具体的に言うと、犯人は正解で動機が違うわね」
やっぱり岩崎さんが黒幕だったのか。
その割にはやけに堂々としている。
「黒幕だったのは認めるんだね。じゃあこんなことをした本当の理由はなに!?俺のこと、どう恨んでるの?」
「恨んでなんかないよ」
え。そうなの。
「恨んでなんかない。
むしろ大好き。小学校のときからずっと好きだった。もちろん友達としての好きよ。
でもあるとき、覚えてる?夏祭りの帰り道?」
記憶が蘇ってきた。
「今日は楽しかったーと思ってたら、あんた暗い夜道で私の手を握ってきたよね?あのとき一瞬こいつ何てことしやがるんだと思ったけど、まぁ友達同士で手を繋ぐこともあるだろうから特別意識しなかったのよ。
でもその日の夜、私ドキドキして寝れなかったの。胸が焼けそうで、心臓がトルコの肉のようにむき出しで炎に炙られてる感じ。わかる?わからないよね。とにかくドキドキしたの。だって初めてだったから。不安になったのよ。初めて同性の女子に恋愛感情抱くなんて」
そうだった。
俺もあのときからだ。
俺が女子をそういう対象として意識しだしたのは。
自分のことを「私」じゃなく「俺」と言うようになったのは。
「私、このまま女子しか好きになれないんじゃないかって凄い不安になった。
だからそれを隠した。
そのままじゃ飲み込まれてしまうかもしれないと思って大人びてるフリをした。
イケてる女子たちと遊ぶようにした。
そうすれば、自然と男子と遊ぶことが増えて忘れることができるかもしれない。
でも中学校時代、木山と廊下ですれ違うとどうしても
意識してしまった。
夏祭りの夜のことを話したかった。
でも話したら私はもう元に戻れないんじゃないかと思った。
でも私こういう性格だからさ、決着つけないと先に進めないんだよね。
だから高校で決着つけようと思った。
それで木山がここの高校受けるって人づてに聞いて私も受けることにしたんだ」
それで岩崎さんはこの高校に入学したのか。
おかしいと思ったんだ。
いくら中学でかなり遊んでいたといっても、地頭の良い彼女が俺なんかと一緒の高校を受けるなんて、と。
「でも結局、私は高校に入っても駄目だった。逃げて男子と付き合ってばかり。
木山はどうしてるかといったらどんどん塞ぎ込んで殻に入ってるじゃない。
自分のことを俺って言うのと性格のアンバランスさで変に浮いた存在になってどんどん孤立していってる気がしたし。
でもあるとき気付いたんだ。
あんたがずっと同じクラスの久我山さんって女の子をケルベロスのような目つきで口開けて追い回してるのを。
それ見て、あっ、やっぱり木山も私と同じで同性が気になるんだって。
その目つきとか見て本当はかなり引いたけど、勇気ももらった。
あんたが私のことをもう意識してくれてないのはわかってたけど、一か八かと思って、あと自分自身の長年続いたモヤモヤを断ち切るためにも告白したの。
それで、振られても木山も自分が女子が好きだって認めれる助力になれたらいいかなって。
だからその後、カップルの女子に声をかけて木山に告白させて、その次の日わざと近くをカップルで近くを通らせて、あんたに危機感を募らせたかったの。
私のように何年も悩んだまま時間を無駄にしてほしくなかったから。でもよくよく考えたら、やっぱり自分が振られた腹いせはあるかな」
あるのかよ。
優しさの表現が屈折しまくってるな。
てか、久しぶりだからめちゃめちゃ喋るな岩崎さん。
「うん、やっぱりあるね。腹いせ。
許してよ、これでももしかしたらいけるかなってくらいは思ってたんだから。
ちなみに、放課後木山の前を私と一緒に歩いてた男は彼氏じゃないから。
誰かって聞かないでね。そういうの頼める系の友達だから」
「そうだったんだ…」
「どう?私のこと軽蔑した?」
「うん」
「え…」
「うそうそ。でも岩崎さんも、そっちが好きだったんだ。安心したな」
「私だけじゃないじゃん。見たでしょ?公園で」
「あ、和田さんと中西さんもか。
びっくりしたなー。なかなか見ないよ。公園のベンチで男子同士と女子同士が二組いちゃついてるの」
「そんなにいちゃついてた?軽くでいいって言ってたんだけど、盛り上がっちゃったのかもね」
「まぁまとめると、お互い色んな告白が出来て良かったんじゃない」
「無理やりだな。ま、そういうことにしよっか」
「また一緒に帰る?」
「うーん、今日は一人で帰ろっかな」
「今日もでしょ」
そう言って、岩崎さんは足取り軽く去っていった。
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