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バスの窓を見上げた。暗くてよく見えないが、中にはすでに何人かの人が乗っているようだ。バスは静かに走り去っていった。少し惜しい気もしたが、行き先を確認していない。乗り間違えたら大変だ。
周囲を見回すと、何人かでタクシーに相乗りしていく姿が見える。静子には、それは少し不思議に思えた。若い女性や中年男性が、平気で一緒に、同じ車に乗り込んでいくのだ。
「みんな普通のときだったら、声をかけられただけでも不審に思うでしょうに……こういう場所だと平気なのかしら」
そう思ったとき、「あの」と後ろから声がした。振り向くと、ボロボロのジーンズとTシャツ姿の青年が立っていた。学生だろうか。青年は、「一緒に乗りませんか」と言った。一瞬迷ったが、断った。青年は残念そうに、そうですか、と言って去っていった。
やはり少し惜しい気がしたが、知らない人と相乗りする気にはなれない。それにどうせ、静子の家はM駅の一つ隣なのだ。歩いてもたいした距離ではない。
「仕方ないから、歩こう」
スカートにヒールという会社に行くときのいつものスタイルで、歩きやすい格好ではなかったが、やむを得ない。
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