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「線路に沿って歩けばいいし。そんなにかからないよね……」
誰にともなくそう言うと、街灯の白い明かりを頼りに、静子は歩き出した。
辺りには誰もいなかった。カッカッカッ、という自分の足音だけが、闇の中に響き渡る。びゅうと冷たい風が吹き抜けていった。静子は、両手で身体を包み込むようにした。
「寒い……まだコートはいらない、と思ったんだけど」
街灯のおかげで足元は見えるが、その白い光の輪の外は、闇に包まれていてよく見えない。街灯の光を一つ一つ辿っていくように、歩を進めた。
静かだった。横の線路からも、物音一つ聞こえてこない。電車の通らない線路は、まるで剥き出しの骨が捨てられている、墓場のようだ。
時折り車が追い越していった。ブロロロロというエンジン音が、近づいては遠ざかっていく。それ以外は、自分の足音と息づかいを除けば何も聞こえない。街全体が、海の底に沈んでいるようだ。
きっとみんな、もう眠っているのね。私も早く帰りたい。
空を見上げた。暗闇の中に、もやもやしたものが広がっている。都会の空だから汚れているのだろう。星一つも見えない。
そうだ、誰かにメッセージを打とう。
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