黒塚

6/22
前へ
/22ページ
次へ
 今日中にどうしても買っておきたいものがあって、そのせいで飲み会に少し遅れてしまったのだった。遅れてきて早めに帰るというのも、気が咎めた。  高谷と花嫁は、みんなの祝福を受けて幸せそうだった。  道はまっすぐ続いている。先は見えない。もしかして、本当に道に迷ってしまったのだろうか。  途方にくれていると、 「でね」  すぐ近くで突然声がした。静子は飛び上がりそうになった。 「で俺、ほんとのところ、そのとき笑っちゃいそうだったんですよ。でもさすがに、それはまずいじゃないですか」  振り向くと、そこには先ほど声をかけてきた青年がいた。静子は驚いた。  いつの間にそこにいたのかしら? それにこの人は、タクシーに乗っていったのではなかったの?  静子の視線に気づき、青年ははにかんだような笑みを浮かべて言った。 「ああ、やっぱり俺も、歩くことにしたんですよ。車より、そっちのほうがいいかなって」  そう。 「だから俺、かろうじて堪(こら)えたんですよ。心の中じゃ、笑い転げてたんですけどね」
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加