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「……もしかして、俺が死んでも、こういう葬式やるのかなって……俺、長男だし……死んでからも、あんな重いもの持たされて……」
風が吹いて、青年の声がかき消された。代わりに、ジャラという音が聞こえた。
「なあに? 何て言ったの?」
髪を抑えながら聞き返した。
「……実は俺、万引きしたことがあって」
「え?」
突然話が変わったので、静子は戸惑った。
「……だから、本当はすごく不安なんです」
見ると、青年の顔は青ざめていた。
「……大丈夫よ、そのくらい」
静子は言った。何が大丈夫なのだろう。だがその言葉に、青年はぱっと顔を明るくした。
「そうですよね、大丈夫ですよね」
「そうよ」
「じゃ、俺これで」
青年は突然身体を翻すと、そのまま行ってしまおうとした。
「あ、待って……」
静子は引き止めた。すると青年は、
「あ、あなたのいく方向は、俺と違うと思いますよ」
と言って、静子が何か言う間もなく、暗闇の奥に走り去っていってしまった。
青年の気配が消え去り、辺りは再び静かになった。
「……そうね、彼の言うとおり、私はきっとこっちだわ……」
静子は青年とは逆の方向に歩き出した。
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