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辺りから明かりが消えた。後ろを向いて振り仰ぐと、駅の蛍光灯が一斉に消えたところだった。わずかな光の残滓によって、かろうじて「M駅」の文字が読み取れたが、それもすぐに見えなくなった。
「あーあ……どうしよう」
静子はため息を吐いた。M駅は、都心と郊外の住宅地を結ぶ路線にある小さな駅で、近くには朝まで時間を潰せるような場所はない。静子は普段、あまり遅くならないように気をつけているのだが、今日は職場の飲み会でつい終電になってしまった。車両の倉庫があるため、終電はこのM駅止まりなのだ。
改札付近には、静子と同じように途方にくれている人たちがいる。
「お客さん、乗るの? 乗らないの?」
近くで声がした。驚いて声のしたほうを見ると、バスの運転手がハンドルを握りながらこちらを見下ろしていて、目の前で、バスのドアが大きく開かれている。どうやらいつの間にか、列に並んでいたらしい。
少し迷った後に、「すみません、いいです」と言い、列から外れた。
「乗らないの? あ、そう」
と帽子を目深に被った運転手が言った。
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