香りの正体

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香りの正体

「今日から1週間泊まりたいのですが、空いている部屋はありますか。」 私に気付いていないのだろう。 何事もなかったかのように男が話しかけてくる。 私の心臓は目の前の男に音が聞こえてしまうのではないかと心配になるほど大きな音を立てている。 おまけに男の香りが辺りを漂っていて、体が熱くなる。 かろうじて動いている頭で考えていたことは、そもそも、この男はこの近くのホテルに泊まっているはずなのに、何故こっちのホテルに泊まるのだろうか、 混乱する頭で必死に状況を整理しようとするも、目の前の男と心臓の音と香りが気になり上手く整理ができない。 「お客様、本日より1週間の宿泊ですね。お部屋を確認するので少しお待ちください。」 私が接客しないから、直樹がフォローに入ってくれた声で我に返る。 小さな声で直樹に謝って、空き部屋を探す。 「お客様、本日より1週間の宿泊ですとモダンルームの宿泊となります。こちらの料金となりますが、如何致しましょうか。」 緊張で声が震えてしまっているのが自分でも分かる。 さっき直樹と見ていた通り、予約がいっぱい入っており通常の宿泊ルームは空きがなかった。
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