香りの正体

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男はそう言いながら、ゴールドに輝くクレジットカードをカウンターの上に置く。 「承知致しました。清算をさせて頂きますので、こちらに記帳をお願いできますでしょうか。領収書の宛名はどのように致しましょうか。」 今まで無意識に言っていた台詞も、信じられないほどにしどろもどろになっている。 必死で平静を装っているが、このままでは何かミスをしそうだ。 私は宿泊名簿を男に渡し、カウンターの上に置いてあるゴールドカードを手にする。 男はカウンターに置いてあるメモ用紙にサラサラと何かを書き始めた。 メモ用紙に走らせる男の手は男らしく骨ばっている。 その手が昔から私を知っていたかのように悦ばせてきた、昨日の夜のことが頭を過ぎる。 「領収書の宛名はこちらでお願いします。」 私の顔をじっと見ながら手渡してくる。 あまりにじっと見てくるので、その視線が私の上に跨っていた時の視線と重なる。 男の手と視線のせいで体の奥が再び熱くなり、心臓が暴れ出す。 「清算してきますので、少々お待ち下さい。」 何かを考える余裕もなく、とにかくクレジットカードを精算機に突っ込み清算を終える。
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