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現状報告
「私達って、結局何で別れたんだっけ?」
彼女のその言葉に、ギョッとした。
まず思った事が二つ。
え、
俺がどんだけ辛かったか分かってないのかよ…。
え、
自分がどんだけヤバい女だったのか自覚無いのかよ…。
理屈より先に、反射的に、正直に、辛辣に、
自分の身体がそんな感想を脳に訴えてきた。
耳から聴神経、脳に、心に、精神に電気がビリッと流れたような。
まぁでも、
分からないように、相手に伝わらないように、
一生懸命演じて、精一杯彼女の事が好きで、
ひたすらに恋愛経験が無くて、
あからさまに優しさが下手で、
言葉が足りなくて、
だから俺が勝手に疲れて、
別れを告げたんだという理屈が、遅れてしっかりやってきた。
そしてまた、それが身体に悪いと分かってて飲み込んだ。吐けないのが俺の悪い癖だ。
酒にめっぽう弱い体質は恋愛体質にも出るんだななんて。上手い事言って、無くて面白くない。
「んまぁ…
お互い、若かったからじゃん?」
全然ちっとも余裕で苦くない苦笑いで、
急いで用意して出た回答は、余りにフワフワした意味不明な中身の無さだった。
何にそんな気を遣ってるのか。
きっと罪悪感もある。
きっと、という曖昧に濁して逃げる前置きな表現は便利で見栄えが良くてどこか後出しで、好きくないけど。
きっと、きっとそう。
俺が彼女をそうさせた。それは後に付き合った方々も同じようにメンタルヘルスを害したから。
俺の人間性に問題があってそう成ってしまう。
だからそれなのに、
当時は全部を彼女のせいにして悪かったなぁと。
今更こんな事は何にもならないけど。
「うんー、
まぁねー」
見た感じ、何故だか満更でも無いような、
問題が解けて嬉しい!みたいなニヤニヤ笑みを
浮かべる彼女。
こんな中身の無い答えでもすんなりと受け入れるのね、いいのね、と。
阿呆なのかなと思うのは失礼だと思うから、
考え過ぎな俺の方が変という事にして、
彼女は俺なんかよりよっぽど強くなったという事にして、
薄味になったメロンソーダを飲み干した。
今俺と話してる彼女は彼女では無い。
勿論、友達でも無い。
嫁でも無い。
嫁はいる。子供もいる。家にいる。
俺は今、八年ぶりに、
人生で初めて付き合った元彼女と会って食事をしている。
腹を満たしながら、久しぶりに会う美結と話してるだけ。
過去の自分と向き合ってるだけ。
平和な時間を過ごしているだけ。
ただお互い、
自分のパートナーには話してないだけ。
知らせが無いのは良い知らせ。
知らぬが仏なら波風は立たない。
ただそれだけで何事も無く普通に。
会食は割と楽しく、iPhoneで時間を見たりしない。
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