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賽
「え?」
「あ、いやあのさ、楽しかったなーって。あ、酔ってないからね?恭子ちゃんと電話終わってから、何かちゃんと醒めてるから。」
「割と最近ですね。ほぼ今じゃないですか。」
確かに、暗い空間ではあるが色白の顔も耳もぱっと見赤くはない。酔った勢いで、という感じなら流してすぐ帰ろうと思ったけど。
「あのさ、何か、いいよね、こういうの。」
「こういうの。」
「あ、ごめん意味分かんないよね。」
「いや多分、」
分かる。いや分かんないけど。相手がどう思ってるか、どう考えてるか、その言葉の意味は、ニュアンスは。言葉を選んで重ねて交わさないと、汲み取らないと。勘違いと誤解の独りよがりで、怪我して傷つけて、不幸にして、なってしまう。盲目の不貞は幼稚で許されない終わりの末路だ。そう分かり切った上で、
「こういうのでいい。
こういうの、だけがいいです。俺は。」
手を繋ぐ事も抱擁も、キスもセックスも無い、愛の言葉もお互い対象が違うし、それは重くて軽い事で価値が無い。来世で恋をしたい一人。なら最低な恋愛も完全犯罪になって自由だろう。もしあなたが違えば、賽は投げられない。
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