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回避
「ん?」
「え?」
「違うよ?」
「違うんですか?」
「私は、墓場まで持ってくつもり。」
「はい?」
「本当に愛してるのは子供と、秘密の人でいいと思う。」
「ん、んーと、」
何それ、どういう事。じゃあそれって、
「雨宮さん的には、THEどシンプルに不倫しちゃうって事ですか?」
「えー言い方悪いなあ。ちょっといけない事するのくらい、良くない?」
「なるほど。」
何がなるほどだ。これが大人の女性ってやつか。俺が子供過ぎるのか。ただの半端野郎なのか。
雨宮さんはこういうの沢山経験してるのか。俺の経験不足なのか。
「変なドラマの観過ぎじゃじゃないですか?」
「否定はしない。」
「否定して下さいよ即答で。え、旦那さんとはじゃあ何で結婚したんですか?」
「その時は良かったからじゃないの?」
「なるほど。」
「凛君はさ、結婚してどう?今。幸せ?」
んー、これは深い質問だ。既婚者にとってこれはよく聞かれる、かつ答えによって相手からの印象に深く関わる質問だ、と思うから。こっちが勝手に思ってるだけだけど。
「幸せです!」と答えれば「ふーん」というリアクションが返ってくる確率が八割。残り二割の「いいなー」という反応は本当にそんな風には思ってなく心の底では「ふーん」って思ってるから実質相手には百パーセント「つまらない」という印象になる。
「幸せじゃないです」と答えればただの不誠実。「あれ、てめえが自分で決めた事なのでは?」「この人の言葉は昔も今もこれからもずっと薄っぺらいんだろうな」「男として筋が通ってない」「常に多方面に対してアンテナ張ってるのかな」「そもそも男の方が幸せかどうかの判断下してんじゃねえよ、主婦の方がなぁ!」という話にならない事は無くも無い事も無い。のでこの手の質問の答えを俺は決めている。
「んー。
半々、ですかね。」
「分かるー!そうだよね、やっぱそうだよね。
相手にもさ、何かしら言い分はあるだろうしね。凛君も色々苦労してんだね。」
聞かれた時にその場で考えて答えを導き出した感が重要だ。そしてしみじみと口にすれば完璧。
結婚は良い事も悪い事もある。自分も相手も。
適度な距離感とコミュニケーション、相手の話をよく聴いて、言う事をきく。お互いに気遣いも妥協もする、ジェンダーレス。簡単な事が長い月日の中で出来なくなってくる。けどちゃんとすれば大抵これで何とかなるはず。何とかしてきたはず。
だから共感を得られる。しかし雨宮さんの答えも中々秀逸。
「んで、どうする?」
「どうしまし
避けられなかったのか。避けなかったのか。
両の頬に手が冷たくて、目の前に長いまつげが閉じてる。口元が柔らかくて鼻が温かい。知らない、人の。女性の匂いが、脳まで。
一瞬、確実に目を閉じてしまった。これは、雨宮さんの匂い。脳裏に妻の顔が浮かぶ。キスをされてキスをしている事にはっとして、目を開けてやっと相手の肩を押した。
「どう?」
「何で。」
泣いてるのか、笑顔で。そう聞いた。
「緊張したから。」
「なるほど。」
俺さっきまで何考えてたんだっけ。
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