三分前

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三分前

落ち着け、まずは冷静に、そう、 普通に。とりあえず。 「とりあえず雨宮さん、帰りましょう?  エンジンも切ってないし長居してると、ね、  あれなんで何か、旦那さんも怪しいとかある  かもしれないんで。」 「うん、帰る。  あ、やば、顔大丈夫かな?」 「あ、全然大丈夫ですよ、問題無いです。」 「あの、LINEは、でも、しない方がいいよね。」 「えっとそこら辺はまた、適当にあの、  LINEします。」 「うん。  じゃあ、またね。  ありがとね、気をつけて帰ってね。」 まるで家に帰りたくないみたいに見えてしまう。そんな宜しくない穏やかな笑顔で車を降りてく。それでもすぐ家の中に入ることはしなくて、角を曲がるまで雨宮さんがミラーの中にいた。 住宅街から大通りに抜け出てすぐのコンビニで一旦車を停める。流石に掻き乱された。一旦ちょっと考えよう整理しよう。その前に嫁に今帰るLINEして。 “今から帰ります” スポッ、と鳴って即既読。やっぱ起きてたかー。 “亜希 気をつけて帰ってきてねー!” 先に寝るんじゃないのか、家着いても起きてる感じなのか、どうなんだ、いや多分家は真っ暗で先寝てます的な空気出して寝室入ったらまだ携帯いじってて「あれ、遅かったね」パターンか。んでそれとなくどんな飲み会だったか聞いて、不審な点が無いか分析するパターンか。 まぁとりあえず、何でもいいやという事にしとく。何かがあっても無くても、夜遅い帰りに誰かが起きてるのはぎょっとする。帰宅したら一人の時間がいい。既婚だろうが独身だろうがこの気持ちは変わらない。 まず、三分前にあった事を振り返る。顧みる。 俺雨宮さんとキスした。やっちまった。既婚者でこれは、きもいよな。最低とかどうとかはどうでもいいとして、一番はやっぱり、娘からしたらきもいと思う。父親として終わったなー。 嫁からしても、まぁ、終わったなー。なんだか笑けてきた。終わり終わり。黒崎、遂に逮捕。いや再逮捕だな。 過ぎた事は仕方ない。あと、どうすんだっけか、俺は何がいいんだっけ。 手を繋ぐのも抱擁も、キスもセックスも要らない。じゃあどんな対象に置くかといえば、来世で恋をしたい一人。それが丁度良い、はずだった。実態が無く表現も無く、楽で都合の良いグレー。何だかんだしっかり抱いて浮気とか不倫に溺れるから駄目なんだって、バレるし気張るしそんなの疲れるって。みんな何もしなければいいのにって思ってた。 それが秒で終わる俺は心底終わってる。こんな軽い人間で居るなんてなー。 何にしても。 墓場まで持ってくのはだるい。多分無理。 絶対バレる。不倫なんてリスクがでかすぎる。 俺のクズさはどうにもならないとして、相手のペースに乗るのは違う。色んな意味で死んじゃう。 本心はそう。 かと言って断ち切るのは勿体無い。悪い気はしない、気分が良い、好意を持たれるのは。来る者拒まず去る者追わず。付かず離れず、は違うな、離れてた方がいい。 「よし帰るか。」 近い内お互いの思惑を交換する。そこで合わないなら仲良くしない方がいい。のめり込む性の関係は危険過ぎる。雨宮さんはそんな重い女性じゃ無いと思うけど。いや、だといいな。 家着く前に雨宮さんのLINEの名前考えとこ。 “起きてるー?今コンビニいるんだけど何か買って帰る?” “亜希 甘いの食べたい!テレビ電話して!” やっぱ起きてるよね。
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