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まあとりあえず一人前のゾンビとなるために、まずはゾンビっぽい動きをマスターしなければならない。俺は今日も研修を受けるために、上司である細田さんの指導を受ける。
「お前、その匂い本当にどうにかならないのか。ゾンビに近づこうとする心意気は立派だが、さすがに鼻が曲がりそうだぞ」
「……スイマセン」
なんでこの人は、俺の様々なことにこんなに寛容的なのだろうか。しかもゾンビに近づこうとする心意気ってなんだ。俺は本物のゾンビなんだよ。なんでこんなに自ら積極的に本物アピールしなければいけないんだ。
「今日はゾンビっぽく走る練習だ。君は見た目は完璧だからな。うちの期待のホープだ、頑張ってくれ」
そう相変わらず突っ込みどころ満載の台詞を口走りながら、細田さんは俺から距離をとると、高く手を掲げる。どうやらここまで走ってこい、ということなのだろう。
ふん、なめるなよ。こう見えて、俺は生前陸上の短距離選手だったんだ。走るのは誰よりも得意だ、度肝抜いてやる。
俺は大きく一歩を踏み出すと、一気に駆けだした。ゾンビの身になっても、意外と思うように走れるものだ。そのまま一直線に細田さんのもとに向かうが、細田さんは突然怯えふためくと、慌てて俺から逃げ出した。
「ちょっちょっと待って、一回止まって、お願いだから!!」
言葉通り、俺は一度足を止めた。細田さんはというと、胸を手で押さえもう満身創痍だ。
「き、君!! ゾンビっぽく走る練習だって言っただろ!! なんで思いっきり背筋伸ばして、めっちゃ体幹良く腕振って走ってくるんだよ!! 速すぎて逆にびっくりしちゃったよ!」
「……スイマセン」
ゾンビっぽくってなんなんだよ。何回も言うが俺はゾンビなんだよ。勝手な偏見を押し付けてきてるのはそっちだろ。
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