研究熱心な変人侯爵の相手は疲れます。

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「なにじゃないよ。体調が悪いのか? それとも…………僕と一緒にいるのはつまらない?」  旦那様が切なげに瞳を揺らした。 (つまらない? どうして?) 「そんなことはありません。この赤い粉はなんですか?」  さっきまで擦り潰していた粉を指して聞いてみる。  いつもだったら、旦那様は喜々として、『それはね……』と教えてくれるのに、今日はその代わりに溜め息をついた。 「興味がないのに聞かなくていいよ。無理して僕を手伝うこともない」 「それでは私のやる仕事がなくなってしまいます……」 「仕事、か……。なにもやる必要はない。お前は侯爵夫人なんだから」 「でも……」  突然唯一の仕事を取り上げられそうになって、焦る。 (どうして急にそんなことを言うの……?)  旦那様は観察するようにじっと私を見て、また溜め息をついた。  その様子を見て、ふいに気がついた。  私は旦那様のお邪魔になっているのかもしれない。  ここに私が居座りつづけたら、旦那様は自由にあの子と会えない。  そういうこと?  それなら早くおっしゃってくださればよかったのに……。  私は慌てて立ち上がった。 「申し訳ありません! お邪魔しました」  ペコっとお辞儀をして、部屋を出る。 「ニーナ?」  旦那様の呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、気のせいかもしれない。  私はここから早く立ち去りたくて、廊下を走った。  あいにくの雨で庭に出ることはできず、自室ではいつメイドや旦那様が来るかわからない。  ひとりになりたくて、屋敷の中をさまよっていると、屋根裏部屋を見つけた。 (こんなところあったんだ)  天井は屋根の形に斜めになっていて、天窓はあるけど、灯りはないので、薄暗い。  なににも使われていない部屋のようで、家具もなく、がらんとしていた。  そこが空っぽな自分を思わせて、妙に居心地がよかった。 (ここなら誰も来なさそう)  壁に寄りかかって座り込む。  膝を抱えて、顔を伏せると、シーンとした静寂が身を包んだ。 (研究にも必要とされないなら、私がここにいる意味はなんなんだろう……)  意味などないのかもしれない。  旦那様は『魔力供給の器』である私を囲いたかっただけ。
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