6.折りたたみ傘と大雨

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 信号が青に変わりゆっくりと車が走り出すと、副部長はわざとらしく尋ねてくる。 「タイピングの速い田中さんは、今日も残業押し付けられたんすか?」 「あ、いや別に。そ、そんなことないですよ……」 「頼み事断れないタイプでしょ?」 「まぁ、はい……」 「風邪引いてても、引き受けちゃうくらいだからね?」 「そ、そんなこともありましたね……」    副部長の目元から感じた優しさは、私の思い上がりだったようで。  相変わらず悪態ばかりついてくる。 「ほんと、お人好しそうだもん」 「そ、そうですかね……」 「残業は二つ返事で引き受けて。何言っても怒んないでしょ? 自己犠牲ばかり払ってたら、都合いいよーに使われるよ」 「お、おっしゃる通りですね……」  副部長からの的を得た指摘に、欠点までもを見透かされているようで、恥ずかしくなる。  だけど、好きでこんな性格になったわけじゃないのに……。  私だってかわいく生まれていれば、自信だって持てるし、誰かに意見することだってできる。  かっこいい副部長には、私の気持ちなんて一生分かるわけがない。  くやしいのに心の中でしか言い返せない自分が情けなかった。    しかし、副部長はさっきとは違った落ち着いた声で(つぶや)いた。 「まぁでも、文句も言わずに人知れずやってくれる、田中みたいな奴がいるお陰で、仕事って成り立つわけだし。  田中は田中のままでも、いーのかな?」 (私のままでいい……)  初めて言われた言葉に戸惑ってしまったが、副部長の言葉をゆっくり咀嚼する間もなく、カーナビから到着を知らせるアナウンスが流れると、大通りから脇道へと左折した。
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