1.チャイラテと出会い

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1.チャイラテと出会い

 昨日までの寒さが嘘のように暖かく、  一晩にして季節は、春へと変わっていた。    バスを降りて徒歩1分。  好立地なオフィス街にあるビル。  私、田中 杏(たなか あんず)はデータ入力の契約社員として、ここで働いている。  お給料は、決して良いとは言えない。  大きなやり甲斐があるとも言い難い。  それでも、ひっそりと生きていきたい私にとっては天職であった。  ビルの自動ドアを抜けると右手にカフェ、左手にはコンビニが併設されている。  節約の文字が頭を過ぎるも。  春の陽気に誘われ、カフェへと向かった。  今日は入社式の会社も多いようで、  真新しいスーツを着た人であふれている。    レジには見慣れないスタッフが右往左往していたり。  いつもの落ち着いたカフェの雰囲気とは少し違っていた。  とは言え私は、いつも通りお気に入りの『チャイラテ』を注文。  会計を終え、受け取りカウンターの前へ行くと、既に数人がスマホを片手に待っていた。  私もそれにならって、トレンドニュースをスクロール。  目に止まった記事を流し読みしていると。 「チャ、チャイラテでお待ちのお客様ー!!」  混雑してるわりには、案外早かった。    スマホから顔をあげ、足早にカウンターへと向かう。 「ありがとうございました」  カップに入った『チャイラテ』を受け取ると。  研修中と名札をつけた店員さんは、初々しくもぎこちない笑顔を向けてくれた。  なんだか、気分も良くなって。  レジの前を通り過ぎた時だった。
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