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「はや…………」
私の声でパソコンから顔を上げた副部長は、驚いた表情で声を漏らした。
まさか本当に時間までに終わらせると思っていなかったような……。
そんな拍子抜けした反応だった。
(ひょっとして、最初から無理だと思う量を押し付けられてたの?)
そうだとしたら、あまりにも意地悪だ。
副部長は、キャスター式の椅子に座ったまま私の横へとやってくると画面に目を向けた。
その距離が思ったよりもすごく近くて……。
ふわっと副部長の匂いがした。
(煙草と……柔軟剤?)
甘くも色気のある香りがさっきの怒りさえも、ときめきへと変えてしまう。
だが、私の高鳴る胸とは反対に、副部長は淡々と完成したデータをスクロールしていく。
確認が終わると何も言わずに私の使っていたノートパソコンを自席へと運んでいった。
(はぁ……緊張した。って、男性に免疫がないからって、副部長の匂いを嗅いでドキドキするなんて!)
気を落ち着けるために小さく深呼吸をすると、さっきの匂いがまだ微かに残っているような気がして……振り払うように頭を振った。
横目で副部長を見てみると、2台のノートパソコンを忙しなくいったりきたり。
(ここにいても邪魔になるだけだし、もう帰ったほうがいいのかな?)
と……思っても、そんな事を聞ける雰囲気ですらなく。
手持ち無沙汰になった私は目のやり場に困り、遠くに置かれていたホワイトボードの空白を、ただただ眺めていた。
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