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一人になると、なぜか一筋の涙が頬を伝う。
メイクが落ちないように、ゆっくりと手の甲でぬぐう。
(なんで泣いてんだろう……)
どんなに怒られても、きつい事を言われても涙なんて出ないのに。
体調が優れなかったせいもあり、ほんのわずかな優しさで。
私なんかを気遣ってくれたりするから……。
すべてが溢れそうになってしまう。
副部長は、ただ風邪をうつされたくなかっただけなのかもしれないし。
散々手伝わせた後に、謝るのはやっぱりずるい。
でもほんの少しだけ、自己犠牲がすぎる私のことを分かってくれた気がして……。
それにしても、どうして体調が悪いことに気が付いたんだろう?
仕事に集中していたせいで、私でさえ風邪を引いている事を忘れていたというのに……。
のど飴を左手で握りしめたままビルを出ると、夏の終わりの涼しい夜風が少し汗ばんだ身体を冷やしてくれた。
あと数分のバスを待ちながら、握った手をそっと開くと、副部長らしい、甘くなさそうなのど飴だった。
なんだか食べてしまうのがもったいなくて、バッグの内ポケットにそっと入れた。
スマホを見ると21時をまわっていた。
いつもなら身も心も疲れきっているはずなのに、今日は心が温かかった。
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