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12月の夜風はすごく冷たくて、マフラーに顔をうずめる。
今日は仕事納めの会社も多いようで、オフィス街近くの繁華街はにぎわっている。
居酒屋の香ばしい煙。
すれ違う人の香水の匂い。
年末は誰もが楽しそうに見える。
(はぁ……。新しい服まで買って、いつもよりメイクなんか頑張って。何やってんだろう)
この繁華街に一番似合わない顔をして、数メートル歩いた時だった。
「たなかぁー!!」
聞き覚えのない陽気な声に名前を呼ばれた。
(あれ? お店に忘れ物でもしちゃったかな……)
そう思い、振り向くと――
(え!? ふ、ふ、副部長!!)
肩を少し上げ寒そうに私の元へと駆け寄ってくる副部長は、さっき着ていた黒いコートさえ羽織っていなかった。
(な、なんで? 私なんかが副部長に話しかけられてるの?)
急なことに混乱していた私は、ただただ駆け寄ってくる副部長の姿を目で追っていた。
が、やはりいつもと様子が違っている。
目元はとろんと垂れ下がり、口元は緩んでニコニコとしていて。
それに足元は、ふらついている。
(なるほど、ものすごく酔っ払ってる…………)
「話しかけようと思ったのにー、目も合わせてくれないんだなぁー」
「え? いや、そんなこと……ないです。す、すいません」
(いつもと、キャラがだいぶ違うような……)
「この前のお礼、ちゃんと言えてなかったから……」
「え?」
「田中が見積書作ってくれたから、締めまでになんとか提出できたし。そのおかげで商談も上手くいってさー」
「そ、そうなんですね! お役に立ててよかったです」
いつもより饒舌な副部長。
相当酔っ払っている事は明らかだった。
それなのに、感謝され素直に喜んでしまう。
愛想笑いなんかしなくても、自然と笑顔になっていた。
副部長は私を満足そうに見つめると、何かを思い出したように、突然目を見開いた。
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