5.フラペチーノと挨拶

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5.フラペチーノと挨拶

 忘年会から半年も経ったというのに、未だに副部長の事が忘れられない。  似た後ろ姿を見つけては心臓が跳ね上がって。  毎朝カフェの前を通るたび、意識せずにはいられなかった。  まるで思春期のような。  片思いとさえ言えない恋をしているうちに、24歳を迎えてしまった。    6月22日、今日は私の誕生日だ。  もちろん、こんな私がきらきらとした誕生日を過ごしているはずもなく。    午前中は会社近くの病院で健康診断。  午後はオフィスに戻って定時まで仕事。  その後の予定なんてのもないわけで……。  健診が終わり、会社へ戻ると13時をだいぶ過ぎていた。  ビルのロビーはランチ時とは一転し、閑散(かんさん)としている。  ふとカフェの看板に目をやると『レモン フラペチーノ』の文字と果汁弾ける水々しい写真。  血液検査のせいで朝から何も食べていない上、梅雨のじめじめとした蒸し暑さでいっそう美味しそうに見える。  節約しなきゃとは思いつつ、誕生日を言い訳にカフェへと向かってしまった。  こんな昼下がりは、副部長に会う心配もないのだから。  店内でゆっくり食べている時間もなく、右手にフラペチーノ、左手にはサンドイッチを持って店を出た。    鮮やかなレモンの色と、ひんやりとしたカップは、雨の憂鬱な気分をも変えてくれる。   (のど乾いたし、誰もいないし。一口だけなら……)  と、ストローを口にくわえた時。  いないはずの誰かの視線を感じ、顔を上げると目が合ってしまった。
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