146人が本棚に入れています
本棚に追加
「お……お、お疲れ様です!!」
「お疲れ様です」
エレベーターへ乗る事を一瞬ためらったが、部長は笑顔で挨拶を返すと、私のために場所を開けてくれた。
慌ててスマホをバッグに放り込むと、何度か頭を下げ部長の斜め前へと立った。
しかし、副部長は私を見るなり目をそらし、黙ったままである。
(完全に無視されてる…………)
「事務の社員さん……? でしたよね?」
「あ、はい。そうです」
扉が閉まると部長は気さくに声をかけてくれたので、慌てて笑顔を作ると少し振り返ってから頷いた。
「いやぁー。いつもお世話になってますよー。あ! 雨、結構降ってそうですけど帰り大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫だと、思います」
(いや、全然大丈夫じゃないです!)
と、言いたいところだか部長だって社交辞令で聞いてくれているのだし、困らせるわけにもいかない。
「って、ことは地下鉄?」
「あ、いえ……」
「じゃー、バス?」
「あ、はいそうです」
「この雨だし、バス止まっちゃってるんじゃない?」
「そ、そうなんですよ……。じ、実は、さっき見たら運休してるみたいだったので歩いて帰ろうかと……」
「え! 歩いて帰るんすか?」
部長は目を丸くして聞き返した。
やばい、言わなきゃよかった。
まさかここまで追求されるなんて……。
返答に困って愛想笑いをしていると、1階へと到着を知らせるアナウンスが流れ扉が開く。
私が小さく頭を下げながら降りようとすると、副部長が『開く』のボタンを押してくれていたのが視界の端に見えた。
挨拶さえ返してもらえない私にとっては、こんな無意識の気使いにさえ、ほっとしてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!