6.折りたたみ傘と大雨

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   イジられることに慣れていない私は、相応(ふさわ)しいリアクションが分かるはずもなく……。  ここ数ヶ月で一番必死の愛想笑いをして、その場をやり過ごす事しかできなかった。  やっと口を利いてくれたと思ったら、本音とも取れる冗談って……。  (よっぽど私のことが気に入らないんだろうなぁ…………) 「住所は?」  さっきの一件に取り残されていた私を、その冷ややかな声が引き戻す。  副部長は面倒くさそうにカーナビを操作し始めていた。 「す、すいません。えっと、中央区――」    副部長の入力のタイミングに合わせ、一区切りずつ住所を伝えていくのだが……。    タッチパネルにふれる長い指と、手の甲に浮かび上がった血管に思わず見とれてしまう。    (副部長の手、かっこいいなぁ……。って、こんな時に、考えることじゃないから!)   「何?」   「え? あ、いや。なんでもないです……」    口ごもり、視線を泳がせながら答える私。  再び副部長の手に目を向けることはできずに、手近にあったエアコンの吹き出し口を見つめていると……。  カーナビから所要時間を知らせるアナウンスと重なるように、副部長の声がした。 「エアコン、寒くない?」 「えっ……? えっと、あ、大丈夫です」  事務的で単調な声だった。  きっと営業という仕事柄、さり気ない気配りが息をするようにできるのだろう。   (でも、もしかして……。私がエアコンを見てたから聞いてくれたの?)  私の思い過ごしかもしれない。  それでも、その純粋な優しさがあの日の延長線上にあるような気がして、また淡い期待を抱いてしまった。
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