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ビルの駐車場から出ると、
待ち構えていたように大粒の雨がフロントガラスを叩きつける。
一瞬空が光ると、ゴロゴロという音を響かせた。
(副部長がいなかったら、今頃この土砂降りの中、歩いて帰ってたんだよね……)
「道混んでんな」
「そ、そうですね。こんな中、すみません……」
明日から連休に入る企業も多く、それに加え猛烈な雨。
オフィスビルが立ち並ぶこの周辺は大渋滞だ。
なかなか進まない車に、副部長はイラついているのか片手で握ったハンドルを、あの長い指でトントンと叩く。
「すみませんって言うんなら、この辺で降ろしてあげよっか?」
「えっ…………」
「大きな傘持って、歩いて帰ってみたらどうです?」
「あ、いや、そ、そんな……」
さっきの私の言葉を使って、嫌味ったらしく返される。
あからさまに送ってもらうことを拒んでいたから、副部長もいい気はしなかったのかも。
でもそれは、副部長に迷惑をかけたくないと思ったからであって。
気分を害しているのではないかと、不安になり視線を向けたが、遠くを見つめるその横顔に表情はなかった。
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