6.折りたたみ傘と大雨

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 最初の信号を右折して、ウインカーの音が鳴り止んだ時だった。 「去年の、忘年会でしたっけ? 酔ってんのに話しかけたみたいで、すいません」  副部長の声は無感情で淡々としていたが、あの日の話を振ってくれた事に嬉しくなった。 (もしかすると、私と話した事を覚えていてくれたのかもしれない!)  あの優しい笑顔はアルコールのせいなんかじゃなくて……。  つい、期待に胸を膨らませてしまった。   「あ、いえいえ! こちらこそホットサンドメーカーありがとうございました」 「ホットサンド?」 「頂いた景品です……」 「あ、そう。俺、ほとんど記憶飛んでてさ。タバコ吸いながら見てた北川部長(きたがわ)から、聞いたんだよ」 「そ、そうだったんですね」   (やっぱり、副部長が私なんかにあの笑顔を見せるわけないか……)  本人が覚えていないとなると、あの日起こったこと全ては無かったも同然だ。    悲しくもあったが、副部長への想いを諦めるいいきっかけになれたのかもしれない。  サイドガラスについた雨粒が、涙のように落ちていく。  何も考えたくなくて、ただぼんやりと目で追ってみる。    が、はっと我に帰った。  私情を持ち込みすぎるあまり、今更だが取引先の副部長であることを完全に忘れていた。    ここはやはり、気の利いた世間話の一つでもしなくては!  しかし、会社も職種も違う副部長と共通の話題があるはずもない。  (雑談なんかハードルが高すぎるよ……)  当たり障りがなく、誰も傷つけず、かつ記憶にも残らない話題…………そうだ!
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