6.折りたたみ傘と大雨

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 オフィス街から離れると、渋滞も少しずつなくなって自宅近くの見慣れた景色にほっとする。  きっとかわいくてあざとい女の子なら、副部長と仲良くなれるこんな絶好のチャンスを最大限に活かせるはずだ。  しかし私には、ずっと話していたくなるトーク力もなければ、ずっと見ていたくなる可愛さもない。  これ以上ボロが出ないように、そろそろ大人しくしていよう。  そう思っている矢先だった。 「田中の会社って、コールセンター以外にも委託(いたく)されてる業務とかあるんですか?」   「え? あ、えっと……」    私と話していてもつまらないはずだと思っていただけに、再び声をかけられ嬉しくも動揺してしまう。   「あ、あの。コールセンターが一番多いんですけど、データ入力とか通販サイトの運営とか、人数は少ないんですけど、いくつか部署はあったと思います」 「へぇー。それで、田中は何やってんの?」 「わ、私はデータ入力です!」    副部長から、自分の事を聞いてもらえた事につい声が弾んでしまった。    まるで、小さな子供が『好きなものはなんですか?』と聞かれウキウキして答えるかのように……。    つくづく単純な自分に恥ずかしくなって、小さく(うつむ)いた。 「通りで、雰囲気に似合わずタイピングが早いんすね?」    信号を待つ副部長は、(うつむ)く私をのぞき込むように首をかしげた。  空を覆う分厚い雨雲のせいで車内は暗く、前方にいた車のブレーキランプがやけに眩しい。  赤々とした光が照らす中、副部長と目が合った。    見下すような笑みを浮かべてはいたが、少しだけ下がった目尻からは、ほんのわずに優しさを感じてしまう。 「え? あ! い、いえいえ!!」  心臓が急にばくばくと音をたて、慌てて目をそらした。  夜の車内で見る副部長は、いつにも増して大人の色気を感じさせる。 (やばい! かっこよすぎる…………!!)  さんざん馬鹿にされておきながら、こんなひねくれた性格の副部長をかっこいいと思ってしまうなんて、心底自分が腹立たしかった。
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