6.折りたたみ傘と大雨

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「返さなくていいから」  そう言って副部長が手渡したのは、折りたたみ傘だった。  持ち手の部分は木製で、黒地にグレーのストライプ。  数百円で売っているようなものとは到底思えず、もし壊してしまったらと考えるだけで冷汗が出る。   「え? あ、いえいえ!! そんな、全然大丈夫です!!」      身振り手振りで一生懸命に断ると、副部長は眉をつり上げてあからさまに不満そうな顔をした。     「いや、俺がせっかく送ってやったのにさ、家の前で濡れたら意味ないから。また、風邪でも引かれたら困るし……」   (あれ? もしかして今私の心配してくれた?)  これ以上遠慮するのもかえって失礼だし……。  神からのお恵みでも受けるかのように、その傘を大事そうに両手で受け取った。   「す。すみません……。あの、この傘は絶対にお盆休み明けにお返ししますので……」 「わざわざ返しにこなくていいから……」   「あ、いえいえ、ちゃんとお返しします! えっと、あの! 本当に今日は送って頂きありがとうございました」 「どーいたしまして」      めんどくさそうに返事をする副部長に「お疲れ様でした」と頭を下げると車のドアをゆっくりと開けた。  大音量で流れるノイズのような雨音にひるみながらも、ワンタッチ式の折りたたみ傘をバサッと開き車を降りた。  
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