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その瞬間、傘に穴でも空くんじゃないかと思うぐらいの激しい雨が叩きつけてくる。
副部長の言った通り、危うく家の前でびしょ濡れになるところだった。
ドアを閉めてから窓越しに会釈をすると『わかったから早く行け』と言わんばかりに、副部長は小刻みに何度か頷いた。
避けきれないほどの大きな水溜まりにローファーをびしょびしょにして、小走りで駆けていく。
エントランスに入り急いで振り返ってみたが、頭を下げる間もなく車はすぐに行ってしまった。
傘を閉じると、ほんの数秒のことなのにたくさんの雨粒がしたたっていく。
タイルの床に流れ落ちる水滴を、ただぼんやりと目でおった。
(副部長の握った傘に、私が今触れているなんて……)
って、こんな時まで何考えてるんだ、私は!
我に返って傘の水を払うと、夏の雨で不快なほどに蒸し暑くなった家へと帰った。
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