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ワンルームの狭い玄関に大きな傘を開いて乾かした。
エアコンをつけ、お風呂にお湯をはりながらシャワーを浴びた。
「はぁー」
湯船につかると、つい声が出てしまう。
しかし、そんな貫禄たっぷりな言動とは裏腹に、頭の中は副部長のことでいっぱいで……。
副部長が言ってくれた言葉、仕草や表情一つ一つを何度も何度も思い出してしまう。
『風邪でもひいたら困るし……』
(ずるい、ずるすぎる。私なんかに好かれても迷惑なくせに。あんなこと言うなんて……)
副部長がモテるのもわかる気がする。
ああやって無意識に思わせなぶりな事を言っては、期待させる。
副部長になるくらいの人だ、ずる賢くて人たらし。
そんなこと最初からわかっていたはずなのに。
それでも、この胸のときめきを抑えきれなくて……。
これ以上深入りしてはいけない!
私に残された理性が、そう警笛を鳴らしていた。
モテない女のひと夏のいい思い出。
そういう事にして、何もかも終わらせよう。
のぼせた身体でお風呂を出た私は、友達が忘れて帰った缶チューハイを冷蔵庫の奥から引っ張り出した。
アルコールなんて全く飲めないくせに、そんなもので喉の渇きを潤していく。
空腹の身体にアルコールが広がって、酔いが回るスピードについていけずに、視界はだんだんぼやけてくる。
(もういっそのこと、風邪でもひいてしまえばいい! そしたら、副部長の貸してくれた傘の意味もなくなっちゃうのに…………)
髪も乾かさずベットにうつ伏せになった私はふわふわとした気分でいつのまにか眠りについていた。
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