7.電子タバコと策士 side篠原

1/3
前へ
/287ページ
次へ

7.電子タバコと策士 side篠原

 充実した休みを過ごしたわけでもないのに、連休明けの朝は憂鬱すぎる。  (だる)い身体を引きずりながらも、始業の1時間前にはオフィスのドアを開く。  すると今日も北川部長(きたがわ)が一番乗りだった。 「おはようございます……って北川、焼けましたねー」 「え? そんなわかる? 実はさ、娘が屋外プール気に入っちゃって。この5日間で3回も連れてってあげたんだよ」 「へぇー、連休中は嘘みたいに天気よかったしね。でもなんか、北川も(うち)じゃ良い父親なんだね……」  綺麗に日焼けした顔を、しみじみと眺める。    北川は、俺と同期であり同い年にも関わらず、結婚して幼稚園に通う娘までもいる。    別に羨ましいってわけじゃないけど、そういう幸せを俺も1度は味わってみたかったなんて、柄にもないことを思ってしまった。   「あ、そうだ。北川がほしいって言ってた、電子タバコ。たまたま店の前通ったら売ってたよ」  俺は北川の机に、小さな紙袋を置いた。 「え、俺に買ってきてくれたのかよ? ありがとー! あ、いくらだった?」  北川がポケットから財布を取り出そうとして、俺はその手を制す。 「別に金はいいよ。安かったし」 「え? どうした篠原、珍しいじゃん!?」 「一言多いんだよいっつも……」  不機嫌そうに笑って見せると、カバンをデスクの横に置いて席に着いた。  すると、にやけた北川がキャスター付きの椅子に座ったまま俺の隣にやってくる。
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加