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親睦会当日。
オフィスの大会議室を貸し切って用意された、立食形式のパーティー会場。
司会者の男性の「あーあー」というお決まりのマイクテストを皮切りに、親睦会がスタートした。
「では、お時間となりましたので始めさせて頂きます。えー、4月より着任されました北川営業部長と、篠原営業副部長、よろしくお願い致します」
司会者の紹介で前へ出てきたのは、笑顔が爽やかな男性と――
(え……!? う、うそ……………………)
カフェで蔑むように私を見ていた、あの男だった。
「札幌営業所から参りました、篠原 翔太と申します」
しかし私が知っているあの男とは、程遠いもので。
物腰が柔らかく、優しくも控えめな笑顔。
挨拶の内容も、決して驕る事のない気さくなものだった。
(って、もう別人じゃん!!)
人間誰しも裏表があるとは言え、ここまで潔く演じられるとは……。
いや、だからこそ汚い手を使い、大手企業の副部長になれたとしたら納得だ。
私に取った態度との違いを思い出すと、あまりいい気はしないが。
どうせ私は、他社の契約社員なわけだし。
この先、副部長と関わることもないだろう。
しかし、また何か言われても面倒だ。
今日は絶対に顔を見られないようにしようと、心にかたく誓った。
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