7.電子タバコと策士 side篠原

3/3
前へ
/287ページ
次へ
 連休明けの仕事は忙しく、内勤だけで定時を迎えてしまい、残業前にいったん煙草を吸って気持ちを切り替える。  まだ当分終わりそうにない仕事の段取りを考えながら、喫煙所から戻るとオフィスのドアの前に見知った後ろ姿を見つけた。    自信がないのか、腰が引けていて。  湿気を含んだ毛先は少しだけうねっている。  何かにおどおどしているその姿は……。  (なんか、俺んちの(ジロー)に似てんだけど……)  ふと田中の右手に目をやると、見慣れた黒い折りたたみ傘が握られていた。  結構ひどい事を言って、からかってたはずなのに。  わざわざ返しに来るなんて、いい子すぎるっていうか……。  やっぱりドがつくほどの、お人好しなんだよなぁ。    俺はそんな田中の後ろ姿に声をかけた。 「なにやってんの?」
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!

145人が本棚に入れています
本棚に追加